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田夏  SS 短編 
銀色の月(名+夏←田 田沼SIDE)
「柊。」
隣を歩く夏目が驚いた声を上げる。『柊』といえば確か…名取さんの従えている式のはず……という事は。
「柊が居るという事は、名取さんも居るのか?」
心なしか夏目の顔がげっそりとして見える。…あんまり会いたい訳でもないのかな。俺は内心、ホッとする。
「…え!?そうなのか!?わかった。行くよ。」
夏目と彼女の会話は俺には聞こえない。…が、何かが起こっているらしい事は察しがつく。
また何か危ない事に係わるつもりなのか――。俺の心がザワザワと騒ぎ出す。



静まり返った真っ暗な部屋の中、俺は身体を起こした。
――眠れない。
あれから夏目は名取さんの元へと向かった。本当なら、最近よくそうしているように、俺の家に来るはずだった。

『名取さんが高熱で寝込んでるらしいんだ。あの人、一人暮らしだからちょっと様子を見てくる。…ごめん、田沼。』

そう言って夏目は足早に去って行った。妖事に巻き込まれる訳じゃないのかと、安心した反面、胸のザワザワは収まる所か、時間が経つごとにひどくなってきている。
『一人暮らしだから』――それは、夏目が彼の家を訪れた事があるのだと示す言葉。…俺の知らない二人の関係。二人が共有する世界。
胸が苦しい。嫉妬で頭がグラグラと沸騰しそうだ。――眠れない。


夜風に当たろうと縁側に出る。夜空に浮かぶ銀色の月を見上げる。


美しく、儚く、
孤独で、神聖で、
手を伸ばしてみても決して届かない。

――夏目みたいだ。

涙が頬を伝う。
今頃夏目は、あの人の元で、あの人を思い、眠れぬ夜を過ごしているのだろうか。
昏い感情に飲み込まれそうだ。

――どうすれば手に入れられる?どうすれば俺のものになる?


『田沼の家の空気は澄んでるな。…なんか落ち着く。』

いつだったか、夏目の言った言葉。
すぐに妖の気にあてられてしまう俺の為に、父がいつも清めてくれているからだろう。
だったら夏目にとっても、この家に居れば、妖の煩わしさから解放される事にならないだろうか?


この部屋に閉じ込めて、自由を奪い、誰にも会わせず、
目隠しをして、そっと耳を塞げば……
俺の事しか考えられなくなるだろうか。


涙はとめどなく流れる。――月が…俺を狂わせる…



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