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田夏  SS 短編 
君は俺のものだから
「夏目、帰ろう。」
放課後の教室に田沼が顔を覗かせた。最近ではすっかり一緒に帰る事が定着して、先にHRの終わった方が誘いに来る様になっていた。
「…ああ。帰ろう。」
笑って夏目が答える。――が、何か様子が変だ。他の人間なら気付きもしないだろう、僅か過ぎる異変も、田沼なら見逃さない。…けど、ここは教室だ。
思慮深い田沼は、今はあえて問わない。

たわいのない話をしながら、少しでも長く一緒に居られるように、ゆっくりと歩く。夏目は至って普通のよう――に見せている。
どのタイミングで切り出そうかと田沼が思案していると、いつも別れる橋の所まで着いてしまった。夏目を見ると、俯いて、なんだか離れ難そうに、何かを言いたそうに
しているので、自分もまだ一緒に居たい田沼は、家に誘ってみた。
「…都合、悪くないなら、ウチに寄ってかないか?」
「いいのか?」
夏目の顔がパッと明るくなった。
「もちろん。」
その様子に嬉しくなった田沼は、ニッコリ笑って答えた。夏目と一緒に過ごす事に、異存などあるはずもなかった。

「お茶、淹れてくるからテキトーに座っててくれ。」
夏目を部屋に通した田沼がそう言って出て行こうとした時、突然、夏目が腕を伸ばして田沼の背中にしがみついてきた。
「な、夏目!?」
驚いた田沼が振り向こうとしたけど、夏目の力が強くて腕をはずせない。ので、そのままの姿勢で夏目の言葉を待つことにした。
 
「………。」
「…どした?」
「…今日、掃除の時間、告白されてただろ?」
「え!?…あれ、見てたのか?」
背中で夏目がコクンと頷くのを感じる。
「…ゴミ捨てで校庭歩いてたら偶然…。急いで離れたから、田沼がなんて返事したかは聞いてないけど…。」
「夏目。あのな、俺ちゃんと断ったぞ。大切な人がいるからって。」
「…わかってる。」
迷いなくキッパリと言った田沼に、夏目も承知していると返事を返す。
「じゃあ、なんでそんなに落ち込んでるんだ?まだ何か心配?」
今度はフルフルと首を振るのを感じた。
「…これは自己嫌悪。俺ってうっとおしい奴だな、と思って。」
「…どういう事だ?」
「…田沼ならきっと断ってくれるって分かってたのに、のに俺、あの瞬間から今もずっとあの子に悪態つき続けてるんだ…。」
そう言って夏目はギュッとしがみつく腕に力を込めた。田沼は夏目の手をポンポンと宥める様に叩くと、先を促した。
「…どんな?」
「…田沼は俺のなのに、とか。田沼に話しかけるな、とか。田沼を見詰めるな、とか…。…ごめん。呆れるだろ?」
突然、田沼は夏目の腕をはずすと、勢いよく振り向いてギュウッと力強く夏目を抱き締めた。
「全然。呆れるどころか凄い嬉しいんですけど…。それって嫉妬してるって事だよな?」
「…うん。」
「はは。好きだったらそんなの当たり前だろ?それだけ夏目が俺のコト想ってくれてるって、自惚れてもいいのかな?…夏目?」
「……うん。」
夏目は照れるあまりに田沼の胸に顔を埋めた。田沼はいまの緩みきった顔を見られたくないので、都合がよかった。


「夏目の嫉妬なんか可愛いもんだぞ。もし俺が逆の立場だったら…。」
「え?」
夏目が田沼を見上げると、そこにはいつもの爽やかで優しげな雰囲気からかけ離れた不穏な恋人がいた。
「その場で飛び出して行って、その女子にこの上なく冷酷な視線を浴びせながら、夏目の手を引いて
校舎裏とか連れてって、そこで独占欲丸出しで夏目にキスとかしまくりそう…。」
「…田沼、それ、相手より俺の方が危ない…。」
夏目の言葉でハッと我に返った田沼は、ハハと笑って誤魔化した。可笑しくって夏目もプッと吹き出した。
「…もしもそんなシチュエーションになった時は、俺もキッパリ断るって約束するから、さっきの実行するのだけはかんべんしてくれ、な?」
「……気をつけます。」


――君は俺のものだから、何人たりとも手を出すな!!










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あきゅろす。
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