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田夏  SS 短編 
丸いフォルムに憧れる(田沼SIDE)
帰り道、今日も夏目の隣を歩く。交わす言葉は多くはないけれど、お互い傍に居るだけで、満たされている。――と、少なくとも俺は思っている。
―絶対に明かさない。…叶わない。
そう思っていたこの想いだったが、もう、心の中に留める事は出来ずに溢れ出してしまった。気付いた時には「好きだ」と口走ってしまっていた。…あの時の絶望感といったら…。
でも、夏目は答えてくれた。「俺も好きだ」と。
あの日はどうやって家まで帰ったのか、よく憶えていない。現実味がなくて、夢じゃないのかと、何度も何度も頬をつねった。じんじんと痛くてもなお、信じられなかった。
最近ようやく、実感できる様になってきた。――夏目が俺を見て蕩けるように微笑ってくれるから。時々、本当に時々だけど、おずおずと戸惑いながら、手を繋いできてくれるから。
その度に、俺の心は喜びに打ち震える。

――ガサガサッ。
突然、道端の茂みが揺れて、中から何かが飛び出してきた。俺は咄嗟に夏目の前に出て背中に隠す。夏目はこの行為を咎めるだろうが、身体が勝手に動くのだから仕方がない。
「ぬ。何だ小僧ども。今、帰りか?」
「ニャンコ先生。」
「ふう。なんだポン太か。驚かさないでくれよ。」
俺は胸を撫で下ろした。庇ったまではいいが、もし危険な妖だったとしたら、俺になす術はないのだ。…はがゆい事に。
「驚いたのはこっちだっ、田沼。そんな事はやめてくれって前に言っただろっ。もし、もしお前に何かあったら、俺は……。」
ああ、やっぱりな反応。そんな痛そうな、泣きそうな顔はしないでくれ。
「…ごめん、夏目。…でも、俺はお前を守りたいんだ。力不足なのは重々、承知してる。それでも守りたいんだ。…俺だって、お前に何かあったら、正気ではいられない。」
「田沼…。」
この話題については、どこまでいっても平行線、堂々巡りなのは分かっているので、これで終わる。夏目もそれは分かっているのか、もう何も言わなかった。
気まずくなるのが嫌で、ごまかし笑いをした。夏目も苦笑いを返してくれた。ホッ。

「どこ行ってたんだ、先生。」
そう言って夏目はひょいっとポン太を抱き上げる。いつもの見慣れた光景。
俺は実はちょっぴり羨ましい。ごく自然に夏目と触れ合える事が。
「うわっ。何だ。足、泥だらけじゃないかっ。」
「沼地で蛙を追っかけ廻してからかってたのだ。」
「ああもうっ。帰ったら速攻、風呂入るからなっ。」
その言葉に、俺はピクリ、と反応してしまった。
「もしかして、夏目がポン太を風呂に入れてるのか?…てゆうか一緒に入ってる?」
「?ああ。毎日じゃないけどな。塔子さん達に面倒かけたくないし。」
前言撤回。ちょっぴり所じゃない。凄く羨ましい。…水を滴らせ、肌を上気させた夏目…なんて、俺は思わずいけない想像をしてしまった。
「ちなみに、時々一緒の布団で寝とるぞ。寒い時にはちょうどいい湯たんぽになるのだ。」
「湯たんぽはそっちだっての。」
俺の気持ちを見透かしたかの様に、面白がってポン太が言った。…くそぅ、羨ましいを通り越して悔しくなってきた。抱き潰してやろうか…。

「…俺、ポン太になりたい。」
「へ?」
「ポン太になって、夏目と風呂入ったり、眠ったりしたい…。」
呟いた俺の言葉に、夏目は顔を真っ赤に染めて固まってしまった。
―数秒、沈黙。そしてフイッと顔を逸らした夏目は、
「…別に、先生に変身しなくても、田沼のままで出来るだろ。…俺も…そう…し、たいし。」
なんて、とんでもない殺し文句をくれて、俺を悶絶させてくれた。


―今度、父さんが留守の時、泊まりに誘ってみようか…。
俺、期待してもいんだよな、夏目。









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