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田夏  SS 短編 
ファーストコンタクト(田沼SIDE)
多分、最初からだったんだろう。
教室の片隅で眠る君を見たときから、もう始まっていたんだ。

小さな頃から度々、変なモノを見た。影だったり、気配だったり、はっきりとはしない何かを。
その影響なのか、よく体調を崩した。
その事を周りに伝えようと必死だった時もあった。誰にも理解はされなかったけど…
父だけが唯一理解し、身を案じてくれた。そして俺は他人と適度に距離を置くようになった。

――水面を漂う木の葉の様にゆらゆらと、不安定で孤独で。


君の噂を耳にした時、居てもたってもいられなくなった。

―話をしてみたい。

知らないクラスを訪ねて、知らない奴に話しかけるなんて、俺には有り得ない事だった。
でも、いざとなると恐くて逃げ出してしまった。情けない事に。それはそうだ。
「妖が見えるのか?」なんて気軽に尋ねられるはずもない。

それからもずっと君が気になって気が付くと目で追ってた。君は時々、俺の視線に気が付いてこちらを振り返った。
胸の辺りがざわりと騒ぐ。けど、俺は曖昧に笑う事しか出来なくて――君は不思議そうな顔をしていたな。
だから君から話しかけてくれた時、本当は震えていたんだ。
「見えるのか?」と聞いた君に、どう答えていいのかわからなくて、「気のせいだ。」と誤魔化そうとした。俺はまだ、恐かったのかも知れない。
でも君は、「俺は見える。すごく変なモノ。」と言った。


――その時。
不安定だった俺の世界は一変した。辿りつくべき岸辺を見つけた気がした。世界は急速に形を取戻したんだ。


ああ、夏目。この気持ちをどうすれば伝えられるだろう。


ずっと自分がおかしいと思ってきたんだ。妖なんてそんなもの、誰も見てやしなかった。俺自身も気のせいだと思い込もうと必死だった。
初めてだった。たった一人だけだったんだ。肯定してくれたのは。自分から歩み寄ってくれたのは。


夏目。唯一無二の人。……愛しい、愛しい人。


俺が君に出来る事はなんだろう。俺が君に返せるものは…。
わからない。だから俺は決めたんだ。
傍に居る事。君の一挙手一投足を見逃さない事。
君を知りたいから。


迷惑だと言われても……ごめん、もう…離れることは出来ない。









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