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田夏  SS 短編 
欲望と臆病と(田沼SIDE)
夏目を見ていると、いつのまにか見惚れている事が多い。
白い肌も、色の薄い髪も瞳も、長いまつげも、形の良い唇も…
透き通る様に美しくて、輝いてて。本当に綺麗だ。
――触れてみたい、という欲求が募る。
けど、いつも俺は躊躇する。触れたくて堪らないのに…その美しさを汚してしまいそうで、こわくて…。


「…今日、田沼の家に行ってもいいか?」
二人で帰宅してる途中、夏目が訊いてきた。他人に気を遣ってばかりの夏目が、こんな風に自分から申し出るのは珍しい。大抵、俺が誘ってばかりだ。
俺にくらい、もう少し我が儘を言って欲しいといつも思っている俺は、嬉しかった。
「もちろん。どうぞ。」
ニヤけない様に注意しながら笑った。夏目も嬉しそうに笑った。
…花がほころぶってこんな感じか?
こうやって夏目はまた、俺を夢中にさせていく。

俺達は決して口が達者な方ではないから、会話がポンポン弾むって感じでもない。けど、穏やかな時間が流れていく。最初の頃は緊張してた夏目も、最近では
俺のベッドでうたた寝する事があるくらいだ。それは、妖とのトラブルに巻き込まれてばかりの夏目が、俺の傍では安心してくれているみたいで、凄く嬉しい。
…と同時に、もの凄い衝動を連れてくる。

――触れたい。手に入れたい、全部。

手を伸ばしてみては、引っ込める。その繰り返し。
こんな気持ちも経験も、初めての俺はどうすればいいのか分からない。…戸惑ってばかりだ。
  

「?なに?」
「…なんでもないっ。」
…なんだろう。今日の夏目は変だ。さっきから俺の顔ばかり見つめてきては、目が合うと俯いてしまう。…何か言いたい事でもあるんだろうか。
「夏目。」
何度目かの時、俺は遂にこらえきれずに名前を呼んだ。こんな時の俺は少し強引で、声に逃がさないという強い響きが現れる。
夏目はハッと顔を上げ、叱られた子供のような顔をした。観念したのか、俺の正面まで移動してきて正座する。
「…夏目、どうした?何か言いたいんじゃないのか?」
今度は極力穏やかな声で問う。――その時、夏目がとった行動に、俺は腰を抜かしそうになった。


突然、首に縋りつかれて、キスされた。…一瞬、掠めるだけの羽のようなキス。
何が起こったのか分からず固まる俺の胸に、夏目は顔を押しつけて言った。
「…ずっとキスしたいって思ってたのに、田沼、全然してくれないんだもん。だから今日は何が何でもしてやるって、覚悟してきたんだ。…嫌だった?」
嫌な訳ない。嫌な訳ないじゃないかっ。夢にまで見た瞬間だ。
俺が夏目に触れたいと思うように、夏目も俺を欲してくれてたんだな。
なのに俺は臆病の言い訳にグルグルと余計な事を考えてた。
夏目に先手を取らせるなんて情けない…。よし、すぐに挽回だ。
「夏目。顔上げて。」
おずおずと紅い顔を上げる夏目の頬を優しく包んで、さっきよりも長めのキスを落とした。
柔らかい夏目の唇の感触。感激でどうにかなってしまいそうだった。
「…最高。」
そう陶然と呟いた俺に、「ばか。」と夏目は照れ笑いを浮かべた。



「…田沼、もう少しTPOは考慮してくれないか…。」
夕暮れ時のオレンジ色に染まる教室で、夏目は呆れたように言った。
居眠りする夏目の寝顔を、長い間堪能した後、目覚めた夏目におはようのキスをした。
――どうやら俺の理性の壁は、一度崩れると抑制が利かないらしい。






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