田夏 SS 短編
ファーストコンタクト(夏目SIDE)
こんなに心に沁みるような笑顔を、見た事はない。
その笑顔を見る度に悲しくはないのに、なんだか泣きたくなる―
両親を早くに亡くした俺は、何処にやられても一人だった。
今ならわかる。幼さ故の失言の多さや、対処法のまずさ、甘え方も知らず可愛げもなかったのだろう。…今ならわかるんだ。
気味悪がれ、嫌われ、疎まれて……孤独だった。
『一人になりたい。早く、一人で生きていけるようになりたい。』
それが、唯一の望みだった。
この町に来て、全てが変わった。一瞬一瞬がキラキラと輝く宝物のような日々。
夫妻も、友人も、妖達でさえも俺を気遣い、見守り、愛してくれる。
そして……―お前に出会えた。
最初に接触してきたのはお前。なのに結局話しかけてはこなかった。
物言いたげに見つめてくるのに、こっちが気付くとすっと引っ込んでしまう。
お前にも妖が見えているのかも知れないという考えに至った時、体が勝手に駆け出してた。
――話をしてみたい
だって初めてだったんだ。本当に初めてだったんだ。自分以外で妖が見えるかも知れない人物に出会ったのなんて。
「見えるのか?」あの言葉を発するのにどれだけ勇気がいっただろう…。
お前は「見えないけど、影や気配で感じる」と言った。
――あの時、どれほど嬉しかったか、お前にはわかる?
そしてお前と俺は秘密を共有する仲になった。
…けど、全てを話せる訳じゃないんだ。
俺はお前に危害が及ぶのが恐くて、お前を避けたり、何も話さなかったりする事がある。
でも、お前は気づくんだ。気付いているのに、聞きたい事も言いたい事も飲み込んで傍に居てくれる。
それがどんなに俺の心を支えてくれている事か……。
―田沼。甘い疼きも、泣きたくなる様な切なさも、連れてくるのはお前だけだ。
夜も眠れぬ程、恋しい人。…初めて恋した人。
本当は。傍に居ない方がいい。妖を寄せ付けてしまう俺。
妖の毒にあてられるお前。……離れた方がいい。わかってるんだ。
わかってるのに……ごめん…一緒に居たいんだ。
…好き、なんだ…
言えなくても、好きなんだ――
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