馬酔木
――五番隊隊舎前――
「……はぁ、」
五番隊の前で立ち止まっているのは六番隊副隊長である恋次。
理由は昨日の“命”である。
恋次の足下にはしっかりと袴を握った小さな手。
蓮が恋次から離れようとしないのである。
「あのなぁ、蓮。俺も遅刻になっちまうだろ」
『…だ、だって』
恋次はまた小さく溜め息をつく。蓮が心細いのは百も承知のこと。
だが決定は決定で、恋次は一応“副隊長”だ。
「(遅刻したら隊長になんて言われるか;)」
そんな恋次の心を察知したのか、はたまた表情に出ていたのか…
蓮はしぶしぶ手を離した。
『れんにぃ…連れてきてくれて、ありがと、』
まだ不安の色を隠せない蓮だが、朝早くから自分を連れてきてくれた恋次にお礼をいったのだ。
「ぉ、おう、…心配すんな!雛森もいるし!藍染隊長も優しい方だ!」
「阿散井君にそう言ってもらえると蓮君も安心かな?」
「『!!』」
恋次と蓮しかいなかったこの場に一つの声が増えた。
「…いつから居たんスか;
…おはようございます、藍染隊長。」
「やあ、おはよう。ちょっと前からね…阿散井君。
もう、遅刻なんじゃないかな?」
「え?あー!やっべ;!蓮!頑張れよ!時間になったら迎えに来っから!じゃあ藍染隊長後はお願いします!」
『ぁ、れんにぃ…』
蓮の声も虚しく恋次の背は遠くなる。
「さて。」
藍染の声にピクリと震える小さな肩。
頼りにしていた恋次が疾風の如く去って行き、知らない人物と二人の空間。
その空気を包むような優しい声色で藍染は蓮に話しかけた。
「ここじゃ何だから、中に入ろうか。雛森君も君を待っているだろうし、何より僕も自己紹介したい。」
『…モモちゃん?』
笑顔の藍染から蓮は聞いたことのある名を耳にし今までの不安はどこへやら、楽しみに顔を綻ばせた。
――隊舎内――
「雛森くん」
そう藍染が口にすると奥から“タタタッ”という音と共に可愛らしい女の子がかけてきた。
「藍染隊長おはようございます!!///
…あ!
その子が蓮くんですか!?」
藍染に頬を赤くしながら挨拶を済ませた雛森は藍染の足下にいる蓮へと目を移し、「可愛いー!」と目を輝かせ蓮の目線に合わせた。
藍染はというと、その様子をにこやかに見ていた。
馬酔木
(『モモちゃんだ!』)
(「か、可愛いっ!隊長!シロちゃんに似てませんか!?」)
(「…ははっ;(日番谷君も大変だな;)」)
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