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知らない雨に焦がれる。
挨拶

イタリアに着くと、車に乗りこんだ。
もちろん、鈴乃の予想と期待に違わぬ長くて黒い高級車だった。
車に乗り込んで数分、どこの国かわからない歌だけが聞こえる中で、うとうとし始めた鈴乃を家光が名前を呼んで起こした。

「なぁに、お父さん。」

「いいか、鈴乃。
今から俺をお父さんと呼んではいけない。
呼んでいいのは、ふたりきりで俺かお前の部屋だけだ。
あと、おじいちゃん、覚えてるな?」

鈴乃は家光の真剣な眼差しに気圧され、こくりと唾を飲んで頷いた。

「もう、おじいちゃんって呼ぶんじゃない。
あの人は九代目。
心優しいが決して逆らってはいけない方だ。
わかったな?」

「わかった。」

話がまとまった所で、キュッと音を立てて車が止まった。

「着いたな。降りるぞ、鈴乃。
いいか、今から俺はお前の父さんじゃない。」

「わかりました、親方様。」

鈴乃がそう答えると、家光は眉を下げて優しく弟子になった娘の頭を撫でた。
ごめんな、と家光の口から零れた言葉は鈴乃は聞いてないフリをした。
先に降り立った家光が外から手を差し出す。
手を借りて車を降りた鈴乃の手を離し、歩幅を狭くしてゆっくりと歩き始めた。
多くの視線が二人に集まるも、無言で一定の速さで歩き続ける。
家光は大きな扉の前で止まった。ノックをしてしばらくすると、入っておいでと優しい声がした。

「やぁ、よく来たね鈴乃ちゃん。」

「お久しぶりです、九代目。」

出発前に教えられたように裾をつまむ仕草をして離れた距離で挨拶を交わした。

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