知らない雨に焦がれる。 特訓 自転車を買って帰ってくると、すぐに補助なしの自転車に乗る練習を始めた。 鈴乃はもちろん、大した苦労もせず乗ることができた。何度か転ぶふりもしたが。 一方、綱吉は。 家光が支えている自転車のペダルをゆっくりゆっくり踏み込む。 ほとんど家光が押しているようなものだ。 家光は「もっと強くこげ」などと指導している。しかし、綱吉はえぇ〜やうわぁぁ!などと悲鳴を上げながらおそるおそるペダルを踏んでいる。 鈴乃は同じ場所をくるくると自転車で回っていたが、ついに見ていられなくなり、綱吉に声をかけた。 「お兄ちゃん、思いっきりこいだ方が転ばないよ!!」 「そ、そーなの?」 綱吉はキュッとブレーキを握った。 「うん。頑張って、お兄ちゃん。」 「うん!!お父さん、絶対に離さないでね。」 「おぅ、任せとけ。」 振り返って必死に念を押す綱吉に家光は笑って応えた。 よーし、と気合いを入れてゆっくりとしかし力を込めてこぎ出した。 だんだんスピードが上がり、速いとはいえないが、初めてにしてはまあまあな速さで正面の壁へたどり着いた。 「乗れた!乗れたよ!!」 誇らしげに綱吉は振り返った。 すると、後ろにはゼイゼイと息を切らした家光がいた。 当然だ。速くないとは言え、人の足では比べられない。 それを自転車を支えて走ったのだ。凄まじい執念。 「ど、どうだ………ちゃんと、さ、支えていた、だろ?」 家光は達成感に満ち溢れた、逆に綱吉はひどくがっかりした表情をした。 家光よ、どれだけかわいい子どもでも、どれだけ念を押されても自転車から手を離せよ。 これがお約束というものだ。 鈴乃は、小学生ということを忘れてツッコミたくなった。 [*前へ][次へ#] |