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『世界はそっち側』
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朝食を済ませたあと生徒会室へ行って、サバイバルゲームの下見に行く時間まで書類に手を付けて、時間になったから生徒会室を退室した。
というのも下見に行くのはオレだけではなく、実行委員会の代表と実行委員会顧問の教員の三人で見る事となっている。
その為、下見に行く時間は基本的に教員の都合に合わせてとなる為、何時どのタイミングで他の役員や転校生が来るかわかったもんじゃないから、凄く心配していたけれど、下見は思ったより早く済んだ。
毎年同じ敷地範囲内で行われるからか、下見でチェックすべき個所は把握済みらしく、ぱっぱと終わった。
……恐らく、オレといるのが嫌って理由も含まれているとは思うけど。
その証拠に二人は足早に下見し、オレが質問しても無視をして進み―――まぁ、些細な内容だったから別に構わないんだけれど―――、許可証のサインも急かしたりなんだりで終わった途端、再び足早に二人は学園へと戻って行ったのだった。
その清々しい程のあからさまな態度に、もう慣れてしまったオレは腹を立てる事もなく二人を追う様に、オレも学園へと戻って来たのだ。
そうして真っ直ぐ生徒会室に向かい、騒がしい奴等がいない事を願って扉を開ければ、転校生や他の生徒会役員達の姿がないのは何時もの事だが、荒らされた様子もなく、誰も来なかったんだなと安心して一息吐いた。


「あ、お帰りなさ〜い」

「うぉ?!……あ?なんだ、青海か……」

「驚かせてごめんね。レクリエーションの下見してきたんでしょう?お疲れ様」

「おー、サンキュー」


誰もいないと思ったいたら、生徒会室備え付けの給湯室からひょっこりと顔を出したのは、この世界で唯一の味方の青海だった。
「コーヒーで良いかな?」と聞かれた為、礼を言いながら椅子に座る。
というか、まさか教師自ら生徒に茶を淹れるなんて、それはどうなんだろうかとも思ったが、青海は元々給湯室にいたからわざわざ入れ替わる事もないか、と思い直した。
……いや、だからそれもどうなんだって話か。持って来てくれたらまたちゃんと礼を言おう。


「はい、どうぞ」

「あぁ、悪い。ありがとうございます」

「ふふ、どうしたの?改まった言い方なんかして」


そう言いながら青海は備え付けのソファに座り、こくりと自分用に淹れたコーヒーを飲んだ。
それに倣ってオレも一口飲む。
下見するのに簡単に終わったとはいえ、裏山を歩き回ったのだ。コーヒーといえど喉を潤せて良かった。
そういえば、なんで青海はここにいたのだろうか?


「なぁ、なんでここにいたんだ?なんか用事があったのか?」

「ん?いや、特にこれといった用事はないよ?そもそもボクは生徒会の顧問だからね。いたっておかしくはないでしょう?」

「そりゃあ、そうだけど……」

「それに、実行委員会の顧問の先生が下見しに行くって出かけた時、生徒会から行くのは実質 君しかいないから留守番的な、ね」

「……なるほど」


青海の説明で、なんで彼がここにいたのかを悟った。
確かに本人が言う様に青海は生徒会の顧問を務めているから、生徒会室への出入りは自由だ。
だからそういった理由でいてもおかしくはないのだが、どうやらその理由は建前で、本当はオレが下見でいない間に他の役員達や転校生が無人の生徒会室に来た場合に対応する為として来てくれてたようだ。
けれどそれは杞憂に終わったらしく、一人で待っている間、誰も来なかったそうで。


「わざわざ悪いな。……つー事は、青海は今ここがどういう状態なのかも知ってるって事か」

「そりゃあね。あまり顔を出す機会は少なかったけれど、目立つ彼等があれだけ目立つ行動してれば察しは付くよ。何度か声はかけてるんだけれど、この様子だと殆んど意味がないみたいだね……。本当は縣君、一人で大変だろうから手伝いに来たかったんだけれど、忙しくしてね。ごめんね、なかなか来れなくて」

「教師なんだから忙しいのは当たり前だ。謝る事でもないだろ?謝るってんなら、それこそ他の役員共がすべきだろ。ここに来たって食っちゃべってばっかだからな」


思い出すだけで溜め息が零れる。
そんなオレに少し申し訳なさそうにする青海だったが「でも!!」と表情を切り替えて言う。


「忙しいのも落ち着いてきたし、少し時間が取れそうだから、空いた時間はなるべくここに来てボクも手伝うよ」

「……生徒会の仕事を教師が手伝って良いのかよ」

「顧問ですから」


なんでもかんでも顧問、顧問と言えば通るとでも思っているのだろうか……?
そうは思うが、一人で書類を捌くのは確かに大変で、人手があるに越した事はないので、青海の言う"顧問ですから"に甘えようと思う。
苦笑混じりに「これ頼むわ」と何枚かの書類を渡せば、青海はさっそく取り掛かった。
オレも青海に倣って書類に手を付けていく。
集中して作業している合間に、ちょこっと世間話を織り交ぜての作業は、不思議と心地の良いものだった。
多分、まともな会話という会話を久し振りにしたからだろう。久し振りに楽しかった。


「そういえば、こっちの世界での生活にはもう慣れたかい?」

「……ある意味では。授業中もなんかすれば見られてきて、なんだかなぁって感じだったけど、最近はずっと生徒会室での作業ばっかりだから、折角の魔法を使える世界なのに授業出れないの勿体ねぇ」

「縣君からしてみれば確かにね。レクリエーションが終われば忙しさも少しは減るだろうから、それまでの辛抱だね」

「あ"ーっ!!折角の魔法なのに。もっとファンタジーを味わいたい!!」

「あはは。大丈夫、レクリエーションで味わえるよ」


そう……青海の言う通り、レクリエーションで行われるサバイバルゲームでは、魔法を使って行われるらしいのだ。
昨日、どういった内容なのかと確認の為に過去の資料を見たんだが、主に複数のチームに分かれて各陣地に立てられた像を守りつつの攻防戦ゲームとなっているらしい。
それぞれの属性の魔法と無属性魔法を使用して行われる為、魔法訓練も兼ねているらしく、この場を使ってスキルアップを目指す生徒も多いんだとか。
他にもルールがあるけれど、それはまたあとで説明するとして、オレも久し振りにまともに魔法を使う事が出来るサバイバルゲームを、実は少し楽しみにしていたりする。


「あと、魔法や授業もそうなんだけど、生徒会室からあんま抜け出せなくて、他の奴等と話す機会がねぇのがなぁ……」

「あぁ、結城君?」

「こっちに書類届けに来るのは石山で、それはそれで碌に会話もしないし、こっちから風紀室に行っても用件以外の会話はお断りって態度だし……オレは話してぇんだけどなー」


"他の奴等"って言ったのに、ピンポイントに結城の名前を出されてしまい、青海は事情を知っている唯一の人物だから見抜かれてて当然といえば当然なんだが、なんとなく見透かされているのが少しだけ気恥ずかしい。
まぁ、それが事実なんだから別に構わないのだが結城や、ついでに石山とかと話す事が出来ないというのは、当然オレの立場というものがあっての事で。
いや、それがこの世界の常識なのかもしれないが、『忌子』って立場なだけで今の所オレ自身は何もしてないだろって話だ。
それを伝えた所で取り入って貰えないのも目に見えてはいるけどさ……凹む。
一番の優先順位は結城と仲良くなる事だけれど、出来れば他の奴等―――他の生徒会メンバー含めて―――とも話したいんだよなぁ……。


「まぁ、難しいってのは覚悟してたし、地道にやってくしかねぇんだろうけどさ」

「今回のサバイバルゲームがきっかけになると良いね」

「そうだな。話しかける機会はあるだろうし……前進あるのみ、だな」


「頑張ってね」と微笑みながら言う青海に「おう」と短く返事を返し、青海に淹れてもらったコーヒーを飲みながら書類処理を進めた。


2018/7/27.



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