『世界はそっち側』 11 ―――多忙な日々を何度も繰り返して、今日はついに全校生徒参加型のレクリエーション、『サバイバルゲーム』が行われる。 生徒達は皆 運動着に着替えて、学園が所有する裏山に全員が集まった。 準備も整い、そろそろ開始時刻となる為、楽しみでざわついている生徒達に静かにするよう、教師の一人が声を張る。 しんと落ち着いた所で壇上に副会長の幡野が上がり、マイクを通して開始の挨拶を行う。 絵本の中から飛び出してきたかの様な王子様の様な幡野のその姿に、一部の生徒達から甘い溜め息がこぼれた。 生徒会の仕事をサボってばかりだった役員達にも、進行役としての役割は割り当てられているという事で、数日前にそれを伝えられたのは本当に良かった。 これでオレ以外の生徒会役員が、全員集まっている生徒側……正確には高城の傍にいる、なんて状況は避ける事が出来た訳だ。 開始の挨拶の終わった幡野は壇上を降り、今度は理事長が壇上に上がり、挨拶を行う。 内容としては、一般的な挨拶とレクリエーションの最中の怪我や事故に繋がる様な行いは禁止だとか、そんな感じの内容だった。 理事長は、挨拶が終わって壇上を降り、生徒会に風紀委員、実行委員会や一部教師陣が並ぶ袖口に戻って来る際、気のせいかもしれないが、理事長と目が合った様に思えた。 いや、気のせいではない様で、理事長も目が合ったと思ったのか、小さくにこりと笑ったが、そのまま理事長席に戻っていった。 ……なんだったんだろうか。 実行委員会のメンバーが司会進行役を務め、次にサバイバルゲームのルール説明に進んだ。 ルール説明はオレが担当する事になっているから壇上へと上がれば、ずっと静かに話を聞いていた生徒達は、小さくざわざわと騒ぎ出した。 「ルール説明……『忌子』がやるのかよ」 「テンション下がるわー」 そんな非難の声がちらほら耳に入って「仕事なんだから仕方ねぇだろう」と心の中でツッコんだ。 まぁ、そんな事を口に出そうが出さなかろうが、状況は変わらないだろうから、ここは一つ。 ルール説明に入る前に一言付け加えておこうじゃないか。 『毎年行われている行事だから、ルール説明なんて今更だと思うだろうが、良いのか?ちゃんと聞いておいた方が良いぞ?今年はルールの変更が行われたからなぁ』 そう、マイクを通して言ってみせれば、生徒達は驚きでざわつきが増した。 驚いたのは何も生徒達だけでなく、他の生徒会役員メンバーや風紀委員、実行委員に教師陣も同じだった。 「ルール変更だって……?」 「何それ……今までそんな事、あった?」 「よくわかんねぇけど、おい、静かにしろよ。聞き逃すぞ」 ざわざわとどよめく中、そんな声がちらほらと聞こえ、だんだんと声も少なくなっていき、やがて片唾を飲んで不安ながらも真剣な表情でオレに注目する生徒達。 そんな光景に作戦が上手くいったと、にっと口角が上がる。 『じゃあ、改めてルール説明を始めるぞ。まず基本的なルールは今まで通りと同じで、生徒会と風紀委員を除く全生徒をランダムでバランス良く5チームに分ける。ランダムで分けられる際、それぞれの腕に充(あ)てられたチームの色の腕章が幻影魔術で着けられる。同じ色の腕章の生徒が仲間って訳だ。そして各チームの陣地に魔法によって創られた像が立っている。各チームその像を目指し、先に像を破壊したチームが生き残り、破壊されてしまったチームは脱落となる。生徒の皆はそれぞれ指定の位置に転送され、そこから相手の陣地に向かい、敵チームと接触した際には魔法で攻防戦を行う。その際、過剰攻撃の魔法が発動されたと感知された場合、発動者は強制的に捕縛、脱落とする。攻防戦の勝敗はある程度ヒットした方に紋様が浮かび上がり、紋様が浮かび上がった者はその時点で脱落となる。そして生徒会役員と風紀委員に関しては、どのチームにも属さない立場となって各チームの人員を削っていく。勿論、その際に役員達に挑んでくれて構わない。そして生徒会役員と風紀委員は各チームの陣地にある像の破壊は禁止行為とする。―――以上』 そう言ってお辞儀を一つ。そのまま壇上を降りる。 あっさりと終わらせるオレに対して生徒達の中から「……え?」という声がちらほら聞こえた。 「……ちょっと」 「ん?なんだよ」 役員達のいる所に戻って来たオレに、眉間に皺を寄せてじろりと睨み付ける幡野の視線に、小さく首を傾げてみせた。 「貴方、説明の前にルール変更があるって仰ってましたよね?……今の説明、例年と何処がどう変わったというんですか?」 「あぁ、それか。悪い、嘘だ。ルールの変更は何一つないぜ?」 「はぁあ?……ちょっ、カイチョ―、ふざけてんすかー?」 幡野の向こう側にいた池内が身を乗り出してオレに聞いてくる。 確かに嘘を吐いた事に変わりはない為、ふざけていると言われても仕方がない。 そんなオレ達のやり取りが耳に入った一般生徒達も再びざわつき始めて、オレを睨む様に見てくる。 「確かに嘘を吐いたのは悪かったよ。でも、そうでもしないとお前等オレの話、絶対に聞く気ねぇだろ?何時まで経ってもレクリエーション始めらんねぇよりかはマシだと思ってよ」 そう言えば思い当たる節があるのか、幡野も池内も、ついでに一般生徒の奴等もぐっと堪える様に口を閉ざし、ふいっと視線をオレから外した。 とりあえず一旦落ち着きをみせた為、気を取り直した実行委員の奴が「それでは」とマイクに音を乗せる。 『これよりサバイバルゲームのチーム分けと移動を開始します。この魔法転送装置が皆さんを一斉に指定の場所にランダムに送りこみます。その際にチーム分けも一緒に行われるので、指定の場所に着いたらまず自分の腕章を確認してください。全員の転送が完了してから五分後にスタートとなります。事前にお配りしたリストバンドで自分の現在地が確認が出来ます』 実行委員が指差しながら説明をしたのは魔法転送装置と呼ばれる水晶のようなもの。 それは一人で持ち上げるには少々腰を痛めてしまいそうな大きさであって、台車を使って運ばれたようだ。 ……わざわざ浮かして運ぶ、なんて事はしないんだなぁ。 全ての行動において魔法を使うというイメージが強いからか、ちょっと普通の感覚がある事に少し驚いた。 そんな事を考えていれば、魔法転送装置がゆっくりと輝き出し、辺り一面を覆う程の強い光となってオレ達は全員ランダムに転送されていった。 2018/8/26. [*前へ][次へ#] [戻る] |