『小虎の恋模様』
2
終業式は微妙な空気のまま終了し、生徒一同、なんとも言えない状態のまま体育館を順番に出て行った。
その際に生徒会役員達が集まっている一角を、あらゆる意味合いを込めた視線をチラチラと向ける事を忘れずに。
そんな生徒達の波から抜け出して一人の生徒が生徒会役員達の元へ駆け寄る。
「小虎〜、最後どーした。吃驚したぞ?」
「……草間君」
駆け寄って来たのは草間だった。
草間は心配をしているというよりは、どちらかというと笑いを堪えている様な表情をしていて、小虎以外の役員と岩代に疑問を抱かせた。
「や、まー、気持ちはわかるけどな。……でもまさか……」
小虎の肩をポンポンと叩きながら言う草間は、次第に笑いを耐えきれず、ブハッ!!、とついに噴き出しながら続けた。
「補習を受ける事に気を落として朗読噛まないとか!!メンタル弱ってる方が聞きやすいとか!!それどうなのッ、ブハハッ……!!」
「ひ、酷いよ!!さっきは"気持ちわかる"とか言ってたくせに!!」
「いやいや、それに嘘偽りはないぜ?オレも補修組だからな」
「補習組ならもうちっと凹めや、草間。つかそんな理由で一瞬変になったんか、お前……」
「うぅ……すみません……」
草間にすかさずツッコミを入れたのは岩代で、改めて確認の為に聞かれた事に対して小虎はコクリと頷いた。
先程、一瞬だけ小虎の様子がおかしかったのは、小虎本人が夏休みに補習を受けるその内の一人になっているからだった。
もともと奇跡的にこの学園に受かり、受かっても成績の問題上、D組に割り当てられている身分の為、補習は免れないであろう事は当の昔に予測は出来てはいた。
が、それが去年よりも一つ数が増えているという事実は予測出来なかった為、凹んでいるという訳である。
草間も補修組ではあるが、彼は特に気にはしていない様子であった。
「そういう訳でして……補習期間中、ボクは補習受けてきます……」
「おうおう、頑張れよー」
「オレ達は生徒会室にいるから何か困った事あったら言ってね。手伝うから」
「あ、ありがとう……そ、それと、ごめんね」
「気にしなくて良いんですよ。補習、大変でしょうが頑張ってくださいね」
「オレも微力ながらお手伝いしますんで」
(小虎に甘ぇのは紀野だけじゃねーのな……)
役員全員からの励ましと応援を受けて小虎はホワリと心が温かくなった。
草間はそんな彼等のやり取りを若干口元を引き攣りながらも見守った。
そうこうしている内に殆んどの生徒が体育館を出て賑わいがなくなっていった頃、岩代が生徒会役員に改めて確認の為にと声をかける。
「んじゃ、この後HR終わればそのまま解散だからここで話すが、お前ら役員は補習期間中の五日間は学校に来て生徒会室で待機。次に集まってもらうのは八月の頭に予定されている外部生見学会の案内の時。相手は中学生だから優しくする事。その後は下旬に全員集合で二学期の行事やらの予定確認等をするから忘れんなよ。予定の入っていない期間中に帰省する場合は一応オレに一言知らせる事。オレは夏休み中も普通に残っているから何かあれば頼る事。出来る範囲で助けてやろう」
「出来ない範囲は断るんですか」
「出来ない事を意気込んでやってどうする。オレは基本、面倒な事はお断りだ」
「センセー、サイテー……」
「うるせぇ。……以上で連絡事項は終わりだ。何か追加連絡がある場合はメールで知らせる。さっさと教室戻れよ」
そう言って岩代は一度職員室に行くと言って先に体育館を出て行き、生徒会役員もその場で解散となった。
といっても途中の階段までは一緒な為、自然と団体で行動する事にはなるが。
「じゃぁ、一年の教室こっちなんで、オレはここで」
「山内君、お、お疲れ様でした!!」
「はい。賀集先輩もお疲れ様です」
先に別れたのは山内で、山内は別れ道である階段を上らず、真っ直ぐに延びる廊下を進み、自分の教室へと入って行った。
それを見届けてから残りのメンバーは階段を上がり、そこで綾小路とは別れ、小虎達は二学年の教室が並ぶ通路へ、綾小路はもう一階分の階段を上って行く。
階段から一番近い教室はA組で紀野と別れ、次にB組の遠野と別れ、小虎と草間は少し先にあるD組へと足を運んでいった。
いよいよ明日から夏休みである。
2015/11/13.
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