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『小虎の恋模様』
20 Side 紀野


見回りを開始して数十分。
突然、草間から少し教室に戻るから賀集と合流して欲しいとの連絡が入った。
一応の為、事前に連絡先の交換は済ませてはあったが、どうせ使う機会はないだろうと思っていたのだけれど、こんな早くに使う機会が来るとは思ってもいなかった。
草間がいない今、事情を詳しく知らされていない一年の風紀委員だけじゃ心配だとは思うが、何分今は少し気まずい。
オレの一方的な事情ではあるから賀集は悪くない為、一人で凹みつつ反省している中、草間からのヘルプの連絡は気持ちの切り替えにも丁度良いかと思い了承したが、実は今別の問題で足止めをくらっている。
今現在、問題を起こした生徒達の捕獲とその場での取り調べでオレと風紀委員は慌ただしかった。
文化祭という一般公開もされる開放的なお祭り騒ぎに便乗して何かを起こす輩は毎年の様にいるのだけれど、どうしてこんな時に限って問題が起きるのか……。
開放的な状況にテンションが上がる気持ちも全くわからないでもないが、少しは落ち着いて楽しめないものなのか。


(コイツ等に構ってる場合じゃないのに……)


文化祭でのトラブル回避も解決も重要な仕事とは重々承知しているが、今のオレはそんな事よりも賀集の事が気がかりだ。
文化祭準備の期間中に見た相田先輩と賀集のやりとりが原因で、最近は賀集と碌に話をしていない。
今日だって機会はあった。賀集のクラスに行ったし、賀集のコスプレ姿―――それも女装―――も見たんだし、会話するきっかけなんていくらでもあったのに、オレは相田先輩との事が引っかかって何も話せなかった。
情けない。実に情けない。


「全く持って情けねぇな、お前」

「……人の心を読むな」

「残念な事にお前がブツブツ呟いてるから聞こえちまってんだよ」


隣に立つ幼馴染みは呆れた様に溜め息を吐いた。
人員要請で駆け付けてきた風紀委員の中に蓮汰郎もいて、一通り話を聞き終えたらしい。
騒ぎを起こした生徒達を他の役員に任せて風紀委員室に連れて行く様を二人で眺めた。


「気になるなら会長クンに聞きゃ良いじゃねぇか」

「もしそれで相田先輩と恋人になったって言われたらオレ死ぬぞ?」

「……お前、前に時間かけて染める派で、先越す様な輩が現れたら潰すって言ってたじゃねーか」

「うるさい」


はぁ……、と溜め息を吐けば、こっちが吐きてぇわ、と言われた。
確かにオロオロしてたり、オドオドと不安になりながらも頑張っている姿を見るのが可愛くて、急に距離を縮めると賀集が混乱するだろうから、ちょっとずつ距離を測ってきたけど、正式に役員になる前の期間で接してきた相田先輩に気持ちが向く可能性は大いにあり得る話で。
それでも役員の引き継ぎ後はオレと接する時間の方が多かったからオレの方に気が向くといいな、と思って過ごしてきたが、新歓での出来事もあるし、本当、相田先輩 厄介だな……。
あぁ、それにしても……セーラー服姿の賀集、可愛かったな。
薄らと化粧もしてたみたいだけど、その素材を生かした自然な感じがまた良い味を出していた。
それにセーラー服という服のチョイスも、またなんとも言えない気持ちにさせられる。
もっとじっくり余裕を持って見たかった。


「……オレ、お前取り調べるの嫌だからな?」

「また口に出してた?」

「いや、出てないけど、なんかそんな顔はしてた」

「…………」


気の緩み凄ぇ……、と若干引き気味に呟く蓮汰郎に、お前は良く気付くもんだ、とオレは心の中で呟いた。


2017/10/11.



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あきゅろす。
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