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『小虎の恋模様』
21 Side 紀野


「それはそうと、オレもう行っても良いか?さっき草間から連絡あって」

「何?なんかトラブったって?」

「いや、草間がクラスの奴に呼ばれて賀集と離れる事になったから合流して欲しいって」

「マジか。んな重要な事もっと早く言えや」


何処にいるのかお前が連絡しろよ?、と蓮汰郎に言われて、賀集に連絡を入れてみる。
プルル……、という電子音が耳に響き、少しばかり緊張してしまう。
本当に情けないな、今の自分……、そう溜め息を零すが、電話がそれを拾う事はなかった。
何故ならば、何時まで経っても電子音が耳に響くばかりだからだ。
通話になる気配がない事を不思議に思い、改めてかけ直そうとすれば、『おかけになった番号は〜』とやっと反応した機械が繋がらない事を知らせてきた。


「……出ない」

「忙しくしてんのか?ちょっと待ってろ、今一年の方に連絡してみっから」


通話終了させて蓮汰郎に言えば、今度は蓮汰郎が電話をかける。
その様子を傍らで見守っていれば、次第に眉間に皺を寄せる蓮汰郎。


「こっちも繋がんねぇな……」


蓮汰郎の表情からまさかと予測していたが、どうやら一年の風紀委員も電話に出ないようだ。
これは何かあったな……。
問題が起きて対処してて電話に気付いていないだけか、もしくは本人達がトラブルに見舞われて電話に出れないのかの二択。
出来れば後者は勘弁して欲しいのだが、賀集は前に被害にあった事がある。
それを踏まえての風紀委員の誰かを見回りに同行させたのだが、だからといって完璧に安全とは言い切れない。
言い切れたとしたらそれは草間が賀集に付きっきりでいてくれる場合のみであって、今はその条件に当てはまらない。
だから草間は賀集と合流して欲しいと連絡を寄越したというのに、問題を対処するのも役員の務めではあるものの、ここは風紀委員の奴等に任せて一人抜けさせてもらって賀集の元に行けば良かったと今更ながらに後悔する。


「ここにいてもなんにもならねぇ。兎に角、探しに行くぞ」

「……あぁ」


蓮汰郎が他の風紀委員達に抜ける事を伝えに行った時、少し離れた位置に見知った顔触れがいた事に気付き、彼等にも話を聞いてみようと声をかけた。


「江ノ島!!鈴原!!」

「え?……は、え?!き、紀野様?!」

「お勤め中ですか?紀野様」

「悪い、ちょっと良いか?」


全ての事情を説明し終わり、話を聞いたオレの親衛隊隊長を務めている江ノ島、そして副隊長の鈴原の表情に影が差した。
そして話の流れで賀集を見かけなかったかどうかを聞いてみたが、二人ともここまでの間に賀集を見かける事はなかったと首を左右に振る。


「こうならないように注意していた筈なのに……オレのせいで……」

「そ、そんなっ。紀野様は悪くないですよ!!」

「そうですよ、タイミングが悪かっただけです!!」

「二人の言う通りだぞ、薊。自分を責めるなって」

「……あぁ」

「あの!!オレ達も探すの手伝います!!」

「探す人数は多い方がいいですもんね!!」


江ノ島と鈴原の申し出は大変有り難いものだが、万が一にも二次被害にでもあったら危険だと断ろうとしたのだが、二人の真剣な眼差しに甘んじる事にした。
途中で戻って来た蓮汰郎が、探しに行く範囲を割り振る為に簡易的ではあるが、見回り用の校内地図を広げる。
そこには、普段から見回りを念入りにする箇所や、回数は少なくても問題の起きた箇所、こういった行事の行われている最中などには注意した方がいい箇所などが記されていた。


「もしなんらかのトラブルに巻き込まれているという事を想定して、恐らくオレら風紀委員が多く見回りに徹している範囲内で犯行を及ぼす可能性は低いと思う。確か会長クンの見回りの範囲は……」

「賀集が担当しているのはこの辺りだ」

「じゃあその辺りはオレと薊で行く。もし見付からなかったら次に他の場所を探しに行く。で、お前ら二人は薊が見回りに回ってたこっち側を念の為見て回ってくれ。お前らもなるべく一人にならずに気を付けるんだぞ?」

「はいっ!!」

「わかりました!!」

「よし、それじゃあ―――……」

「ちょっと待ったぁ!!」


探しに行くぞ、と恐らく続く筈だった蓮汰郎の言葉を、突然のストップの声で遮られ、何事かと驚きつつも全員で声のした方へと顔を向けて見れば、そこにいたのは丁度曲がり角の壁際に、こちらを見てくる三人の姿があった。


2017/11/21.



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あきゅろす。
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