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『小虎の恋模様』
12


何時までも入口を塞ぐ訳にもいかず、見兼ねた草間が二人を席へと案内する。
顔を青ざめさせ、フルフル震えながら小虎がメニュー表を持ってきた。


「……ご注文お決まりになりましたらばスタッフをお呼びくださいませ……」

「あぁ、ありがとう」

「(小虎、終業式の補習連絡した時みたいになってんな)……で?紀野はなんでテンション低いの?」


メニュー表を渡しながら吃る事も噛む事もなく紀野と巽に伝え、メニュー表を受け取った紀野が素っ気なく礼を述べる。
その様子に草間は夏休み前の終業式での出来事を思い出しつつ、小虎のコスプレ姿―――それも女装―――を見たにも関わらず、紀野が素っ気ない態度をとるのを不審に思い、巽に小声で尋ねれば、あー……あれな、と心当たりがあるという声音で巽が小声で説明する。


「つい最近、会長クンが相田サンと一緒にいる所見ちゃってね」

「?別にそんなの何回もあっただろ?」

「今回は別。すげぇ"仲イイデスヨー"みたいな雰囲気醸し出した上に、チューしたっぽい」

「……はぁ?」


巽の発言に思わず小声ではなく少し大きめの声量で返事をしてしまい、教室中の視線を一斉に浴びてしまった。
慌ててなんでもないと謝罪をして、不思議そうに首を傾げる小虎の肩に腕を回し、教室の隅の方へと追いやってコソコソと内緒話を始めた。
軍人と女子高生という組み合わせがなんとも言えない不思議感を醸し出された光景に、チラチラと視線が向けられた。


「お前、最近相田さんとなんかあったって?」

「へっ?!な、ななななんで急に……」

「巽が見たって言ってた。チューしたとか」

「ふぁっ!!」


草間の次は、今度は小虎の返事が大きく出てしまい―――返事とは言い難いものだが―――、どうしたー?、とクラスメートに心配されてしまった。


「ご、ごめんなさいっ。なんでもないです!!」

「そーかぁ?なんでもないなら良いけどよ、キビキビ働けよー」

「おー、もちっとしたら動くわー」


草間てめー!!、と冗談交じりに交わされる会話を聞きながら小虎はバクバクと早足になった心臓を落ち着かせる為に深呼吸を繰り返す。
落ち着きを取り戻した頃を見計らって草間が、で?真実は?、と改めて小声で尋ねた。


「べ、別に、その……口、にされた訳じゃ……」

「チューされた事実は認める、と。……そもそもなんでそんな事になった訳よ」

「そ、れは……その……」


言い淀む小虎に、吐いてスッキリしちゃえよ、と促す草間。
そもそもあの出来事をペラペラ喋っても良いものなのだろうか、先輩に対して失礼なんじゃないのだろうか、そう思う小虎はなかなかに言おうとしない。


「……告白でもされたか」

「う"っ……」

「嘘のつけない人間だな、お前は」


そこが良い所でもあるんだけどよ、そう言う草間は、小虎が相田から告白を受けた事実を知り、そうかそうか、と頭を撫でた。
草間は、小虎が誰を好きでいるのかを知っているが故に、相田へ向けた答えを容易に想像出来、そして小虎の性格を知るからこそ、頑張って答えたんだろうな、という事もわかり、自然頭を撫でる手は優しい手付きとなる。
だが、それで何故キスをしたという話になるのか。
その根本的な質問に対しての答えをまだ貰っていない草間は、続きを促す。


「……最後の我が儘だって、おでこに……」

「……なるほど」


額を押さえながら、その時の事を思い出して頬を染める小虎に、草間は口元を緩める。
無理に聞いて悪かったな、そう草間が優しく謝罪をすれば、小虎はフルフルと頭を振って返す。


「……と、なると誤解を受けてるって事になんな」

「何が?」

「相田さんとのやり取り、巽だけじゃなくて紀野も見てたらしいぞ?」

「……どこで?!」


草間の爆弾発言に再び声を上げた小虎に、教室中の視線が集まった事は言うまでもない。


2016/12/31.



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あきゅろす。
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