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『小虎の恋模様』
12


「とりあえずオレはこの人風紀室に連れて行くから」

「おー、頼むぞ巽」


そう言って巽は吉野を連れて理科室を出て行った。
残った小虎と紀野、そして相田は暫く無言でいたが、相田がそれを破る。


「オレもオニに戻っかな」

「わかりました。相田さん、ありがとうございました」

「気にすんな。丁度近くにいたからな」

「あ……会長さん、ありがと……でした」

「いやだから今はお前が会長だろって」


さっきも言ったろ、と笑う相田を見て、微妙な空気が少し和らいだ気がした。
そういえば、と再び相田が思い出したように言う。


「賀集はシール持ってないよな?」

「あ、はい」

「んじゃ、オレのシールやるわ」


ほい、と渡されたシールを見れば、そういえば本来ならば吉野のシールを貰う筈だったのに、良いのだろうか。
そう思いながらも相田に貰ったシールを小虎は体操着に貼る。
じゃあな、と理科室を出て行く相田を見送って、小虎と紀野の二人きりになった。
再び訪れる沈黙に、小虎はソワソワと落ち着きがない。


「賀集」

「はっ、はははい!!!!」

「そんな驚かなくても」


ふふっ、と優しく微笑む紀野を見て、ドキリと心臓が早鐘を打つ。
直視出来ない小虎は、パッ、と顔を俯かせて高鳴る心臓を落ち着かせようとする。


「怖い思いしたね。もう大丈夫?」

「あ、うん……あの、紀野君たちは、どうして……?」

「あぁ……、"理科室で先輩に襲われて、助けてくれた会長さんが危ないです"って一年生に言われてね」

「……あの子、大丈夫……だった?」

「うん。別の風紀委員が事情聴取するのに風紀室に連れて行ったよ。その後はわからないけど、多分体育館に向かうと思う」

「良かった……」


先程助けた一年生の事を聞いて安心した小虎に紀野は、人の心配は兎も角、と切り出す。


「少しは自分の心配もした方が良いよ?」

「あ……ボクは、本当、ダイジョブ……」

「さっき手、払われちゃったし」

「……っ、ごめ……なさい。び、びっくり……して……」

「いや。不用意に行動したオレが悪いしね。賀集は悪くないよ」

「紀野君こそ、……悪くない……です」


俯く小虎の声がだんだんと小さく弱まる。
何時もなら大丈夫だと頭を優しく撫でる紀野だが、今回ばかりは小虎の心情を思い、控えた。
また少しの沈黙のあと、紀野が優しく小虎に声をかける。


「とりあえずオレ達も見回りに行こうか」

「う、うん。紀野君は、巽君に……?」

「あぁ。オレが行きそうな所を予測してたみたいで、曲がり角の所でばったりね。こういう時、幼馴染みだと不利だよね」

「……幼馴染み……?」

「そう。オレの両親と蓮汰郎の両親が学生の頃からの知り合いらしくて。家族ぐるみの付き合いなんだ」

「だから、仲、良いんだ……」


そっか、幼馴染みなんだ……、と小虎が数日前に疑問に思っていた答えに納得し、そして羨ましくも思ったその時、仲は悪くないけど、と紀野が話し出す。


「オレとしては賀集ともっと仲良くなりたいな」


少し照れくさそうに言う紀野の顔を見て小虎は嬉しいのと恥ずかしい気持ちで顔を真っ赤にさせた。
小虎が居た堪れない状態の中、二人は並んで見回りに向かった。


2015/4/29.



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