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『小虎の恋模様』
11


「何やってんだ、テメェ」


振り下ろされた拳があと少しで小虎の頬に当たりそうになった時、ガラリと勢いよく扉が開き、同時に低く唸るような声が理科室に響いた。
小虎もオニ役も突然の音に驚き、声のした方へと視線を向ける。
向けられた先の人物は静かに小虎達の元へ歩み進める。


「……会長、さん……?」

「今の生徒会長はお前だろーが。賀集」


小虎達の視線の先にいたのは、前生徒会長を務めていた―――相田 雅也(アイダ マサヤ)。
ゼッケンを身に着けているという事は彼はオニ役で、逃げる生徒を追い、そして探す為にこの近くを探っていたら不穏な音を聞きつけ、更に悲鳴に近い声を聞いて走って来たのだ。


「誰かと思ったら相田じゃん」

「テメェこそ誰かと思ったら吉野じゃねぇか」


同じ学年同士、顔見知りの二人はお互いに睨み合っている。
知り合いの登場に小虎の恐怖心が少し和らいだ。
小虎も先程の生徒みたく、今なら抜け出せないか試に動いてはみるが、どうしてか腕を抑える力が強まった。
痛みに息がつまるが、諦めずに繰り返していれば、オニ役―――吉野が舌打ちをする。
吉野の下にいる小虎の様子は相田からは死角になっていて見えなかったが、小虎が動いた事で状況を理解する。


「……吉野。今すぐ賀集を離せ」

「はぁ?なんで。お前には関係ないだろ?もう生徒会長でもなんでもねぇんだし、お勤めはなくなったろ」

「確かにもう会長でもなんでもねぇ。けどな、だからって見過ごす訳にはいかねぇだろ」

「ふーん……、うぜぇ」


冷めた笑みを相田に向ける吉野。
その瞬間、相田はいっきに詰め寄り、思いきり吉野の頬に殴りかかった。
目の前の光景に小虎は息をのむ。
殴られた事により体制を崩した吉野はそのまま倒れ込み、反動で小虎もよろめいたが、なんとか踏ん張り耐えた。
うぅっ……、とくぐもった唸り声を上げながら吉野はゆっくりと起き上がり、その隙に相田が小虎を庇うように背に隠す。
背中越しに小虎が吉野を見れば、赤く腫れた頬を押さえ、痛みに耐えるよう、唇をきつく噛みしめていた。


「とりあえずテメェは強姦未遂で風紀に引き渡す」


そう言いながら相田は座り込む吉野の腕を掴み立たそうと引き上げた時、新たな訪問者が勢いよく扉を開ける。


「風紀委員だ!!大人しくしろ!!」

「賀集!!」


勢いよく入って来たのは風紀委員長である巽と紀野だった。
二人の登場に相田は、ナイスタイミングだなー、と呑気に挨拶をする。
それに比べて吉野は苦虫を噛んだように舌打ちをする。
事情を聴くべく巽は相田と吉野の元へ、紀野は茫然としている小虎の元へ向かった。


「賀集、大丈夫か?!」

「……き、の……くん……?」

「……何もなかった……って感じじゃなさそうだな」

「え?……あ、わぁっ!!」


小虎は茫然としていて、今自分が吉野に襲われ、服が乱れたままの状態だという事を忘れていた。
紀野に指摘され慌てて服を整えるが、状況は既にバレてしまっているのでもう遅い。
恥ずかしさで俯く小虎を見て、紀野は怖い思いをしたのだから仕方ないだろうと思い、小虎の頭に優しく手を乗せる。
が、その瞬間、小虎はビクリと肩を揺らし、思いきりその手をパシッ、と払ってしまった。
その衝撃は紀野だけではなく、離れた位置にいる巽や相田も驚いた。
ハッ、と気付いた瞬間、小虎は慌てて紀野に謝った。


「っ、ご、ごめ……」

「いや、大丈夫だよ」


申し訳なさから目を合わせようとしない小虎に紀野はほんの少し切なく眉を寄せた。


2015/4/29.



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