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『小虎の恋模様』
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開始放送から一時間が経過。
小虎は移動教室で使用される理科室に隠れて様子を窺っていた。
廊下の方から悲鳴や楽しそうな笑い声や叫び声がちらほら聞こえてはくるが、小虎のいる教室まではまだ距離がある。
それを聞きながらドキドキと高鳴る心臓を落ち着かせる為に深呼吸を繰り返す。
教室近くの廊下からバタバタと足音が響き、落ち着いてきていた心臓がまた忙しなくなる。
教室の目の前の廊下を走る音が近付きガラッ、と勢いよくドアが開かれる。


「つーかまーえたっ!!」

「わぁっ!!」


どうやら逃げていた生徒が逃げ道として理科室に入ったはいいが、運悪くオニに捕まってしまったようだ。
小虎はテーブルの下に隠れ、丁度死角になっているらしく、二人は小虎に気付く様子はない。


「先輩、足速いです」

「オニですから。ホラこれシール」

「あ、はい。じゃあボク、体育館に……」

「あー、ちょい待ち」


体育館に戻ろうとした生徒をオニ役の生徒が何故か引き止める。
会話しか情報を掴めない小虎も、なんだろうと首を傾げてオニ役の続く言葉を待つ。
そうした次の瞬間ダンッ!!、と大きな音とテーブルが軋む衝撃が理科室の空気を変える。
シン……、と静まり返ったその時、それをやぶったのはオニ役の生徒だった。


「なぁ、体育館なんて戻んないでこのままオレとバックレようぜ?」

「……えっ、先輩?」


声を潜め低い声でそう言うオニ役に、生徒の驚いた様子が空気で小虎にまで伝わった。
小虎は気付かれないようにそろりとテーブルの下から覗き込めば、入り口に近いテーブルの上に覆い被さるように生徒を拘束するオニ役の背中が見えた。
その様子に小虎は息を止め、固まる。


「先輩、あのっ……冗談、ですよね?」

「流石にここまでして冗談で済むと思ってんの?」

「えっ、いや……あの……ひっ?!」


突然拘束されている生徒の悲鳴が聞こえハッ、と我に返り再び窺えば、オニ役が生徒の体育着の中に手を入れ、弄っていた。
いやだと首を振って抵抗する生徒に対し、力の強いオニ役は余裕な笑みを向け、次第にその行為がエスカレートしていき、生徒の切ない声が理科室に広がっていく。
その様子に小虎は"そういう人"が学校にいる事も理解しているし、自分もそちら側にいるからわかるが、でも実際に"そういった"場面に出くわした事は一度もない為―――あっても困るが―――小虎は冷静に考える事が出来なくなっていた。


「(たたた大変だ……っ!!こここここんなの……)―――っダ、メで……あだっ!!?」


慌てて止めようとした為、テーブルの下にいた事も忘れ勢いよく立ち上がり、テーブルに思いっきり頭をぶつけてしまった。
突然の第三者の存在とその大きな音にその場にいた二人は驚いて小虎の方を見て固まる。
痛めた頭部を押さえ、涙目になりながらノロノロとテーブルの下から這い出て改めて二人の方へと向き直る。


「あ、あああのっ!!今は鬼ごっこ中、なのでこ、こここういうのは、よくないかと……!!」


あわあわと頬を赤く染めながら小虎が言えば、オニ役がいち早く正気に戻り、小虎を睨む。
続いて拘束されてた生徒が、オニ役の注意が反れた事によって出来たスキを見てオニ役を押し返し、そのままドアまで走り出て行く。
それを小虎とオニ役が唖然と見ていたが、それから二人の視線が交わって初めて小虎は自分の立場を理解する。


(あの人逃げれたのはよかったけど、……うわぁーん!!あの人なんでボクを置いてったの?!)

「……あんた、生徒会長だよな」

「ひぇっ?!あ、はははいっ!!」

「ふーん。隠れてたとはいえ役員のお仕事ちゃんとしてんだ」

「えっ、あ、いや……その……」

「……よくも邪魔してくれたな」

「―――ッ?!!」


気付いた時には既にオニ役は小虎の傍に来て先程の生徒同様に机に押し倒してくる。
いきなりの事で息をつまらせ、小虎はオニ役を見るが急な事で思考が上手く働かず、ただただお互い見つめ合う形にしかならなかった。
ニヤリと嫌な笑みを作るオニ役に、背中にゾクリとしたなにかを感じた。


「……へぇ、遠くからじゃ良くわかんなかったけど、近くで見ると結構可愛い顔してんじゃん?会長サンよぉ」

「あ、あああの……?離し……ッ」

「それは出来ないなー。会長サンが邪魔してくれちゃったもんだからさ」

「邪魔……って、だって、あれは……」


とめないとって思ったから、そう続こうと口を開いた瞬間、オニ役の顔が目の前に迫って来た。
何が起きているのか、その働かない脳が理解するには少し時間がかかってしまった。


(――――――ッ?!!)

「ッ……!!……いってぇな……」


遅れたとはいえ気付いた瞬間、小虎はオニ役の唇に思いきり噛み付いた。
痛みで離れた相手の唇の端に血がじんわりと滲んでいる。
痛みに眉を顰めていたオニ役は唇を舐め、その味に冷ややかな視線を小虎に送る。
その双眸にゾクリと背中が震えた。


「……大人しそうに見えてやるじゃん、お前……」

「は、離して……くださ……」

「そーでなくっちゃヤり甲斐がねぇよな……!!」

「ッ?!」


両腕の拘束を一纏めにされ、抵抗するが力の差があり、片腕で抑えられているのに離す事が出来ない。
オニ役は空いている手で小虎の体操着を上へ押し上げ、そうして小虎の上半身が空気に晒される羽目に。


「や……?!な、に……っ!!」

「誰か来る前に済まさねぇとだから大人しくしてろよ」

「ひっ!!いや……だ!!離して!!」


外気に晒された肌をなぞるように指がゆっくりと這う。
普段人に触れられる事のない箇所を触られ、羞恥と恐怖でゾクリと鳥肌が起つ。
いやだと力いっぱい抵抗しても、それは相手を煽るだけとなりオニ役は小虎の首から鎖骨にかけて舌を這わす。
恐怖心が一気に増加される。
本気でまずい状況に小虎は目の前が真っ暗になり、生理的な涙が零れた。


「いやだ……、誰か―――ッ!!」


いきなり小虎が大声を出した事に慌てたオニ役は、小虎を大人しくさせようと拳を振り下ろした。


2015/4/29.



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