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■短編■
狼さんと遊ぼう!!


担当教師の長い無駄話が続いた結果、本日最後の授業終了のチャイムが校内に響き渡った。
「残念だ」と溜め息を吐いて教師が終わりを告げて教室を出て行く。
ただ座って話に耳を傾けていただけのオレ達は、一様に身体を伸ばしたり帰宅の準備に取り掛かる。
まぁ、長い無駄話を真面目に聞いてたのはほんの一部だろう。
オレはたまに拾っては流す、拾っては流すの繰り返しで、合間に欠伸をつく感じだった。


「さて、っと。帰っかなー」


オレも他の生徒同様に帰宅準備に取り掛かれば、外から一瞬ざわっと騒ぎ出した事に不思議に思い、そちらを見遣れば騒ぎの理由に納得した。
教室の後ろ側の出入り口に集まる人だかりの中心に、見慣れた髪色とそれと同じ毛色の、ぴんと立った耳が目に入る。
中心人物を囲う様に周りには多種多様な女子達――― 一部男子も紛れ込んでいる―――が、きゃあきゃあと黄色い声を上げて喜んでいた。


「しーずーかー」


中心人物は周りの奴等に鬱陶しそうな視線を一通り送ってから、面倒くさそうに間延びした口調でオレの名を呼ぶ。
……というかこの状況でオレの名前を呼ぶな、巻き込むな。
そう思うがもう呼ばれてしまった為、中心人物に群がってた女子達+αが一斉にオレの方へ睨みをきかせてくる。
その禍々しいオーラが見えた気がしてびくりと肩を跳ね上がらせれば、中心人物が周りを押し退けてオレの元までやって来た。


「ろ、狼牙(ロウガ)……」

「オラ、帰んぞ」

「……今日、なんか約束してたっけ?」

「してねぇけど静と帰りてぇんだよ」


……なんだこいつ、ギャップ萌でも狙ってんのか。
不覚にもキュンとしたじゃねぇか畜生。
オレの元までやって来た人物、『獣人・人狼族』の狼牙は、『人狼族』の中でも珍しい銀狼で、その毛色は他の『人狼族』とは違い、白銀に輝いている。
それは髪だけではなく、耳も尻尾も艶やかで、強い印象を受ける双眸は金色に輝きを放ち、その容姿は周りの目を奪うのも納得がいく代物だ。
かくいうオレも初めは目が離せないでずっと見つめていたせいで、喧嘩売られてんのかと思ったらしい狼牙に睨まれ、誤解を解く為に話をしたのがきっかけでオレ達は仲良くなった。
そんな人気者の一人である狼牙を含め、実は人気者と称えられている複数の奴等と何故かオレは親しい関係だったりする。
ただの『人間』でしかないオレなんかに、なんで皆仲良くしてくれるのかは謎だ。


「早く帰るぞ。兎草に見付かったら面倒くせぇ」

「あー……、うん」


別に『人狼族』と『卯族』の仲が悪い、という訳ではないが、個人的に双方共に良く思っていないらしく、何かと言い争いを繰り返している。
……まぁ、喧嘩とかは別に狼牙や兎草ばかりが当て嵌まる訳ではないけどね。
とりあえず一緒に帰る事にはなる様だから急いで教科書とかを鞄に詰め込んだ。
何が面白いのか、そんなオレの様子を狼牙は楽しそうに見つめてきた。


「狼牙君、帰るの?私も一緒に帰りたぁい!!」


そんなオレ達の様子を遠巻きに見ていたクラスメートの内一人の女子が狼牙の腕に絡み付きながら話しかけてきた。
この女子は校内で有名な、小柄で可愛いと評判の高い『獣人・鼬(イタチ)族』の子で、身長差も相まって自然な上目使いに、ふわふわとした表情、愛嬌のある唇にはほんのりとグロスが塗られ、男子には人気ではあるが女子からは「あざとい」と陰で言われている子だ。
オレは普通に男子なんで可愛いとは思うけど、確かにこのやり取りとか、くっ付き方とか顔の角度とか―――身長のせいだけど―――は、ちょっと好きくない……された事ないけど。
一向に引きそうに、ってか離れない彼女に狼牙は無言のまま彼女を見ている。
このまま彼女と帰る事になってもオレは別に構わないから―――どうせ狼牙とくっ付いてそのまま放置だろうし―――オレも狼牙の返事待ちだ。
そうして漸く狼牙は口を開いた。


「悪ぃんだけど、気持ち悪ぃから放してくんねーかな」

「…………は?」

「…………え?」


暫くの沈黙のあとの発言がこれですよ……思わずオレと彼女の反応がハモったよ。
狼牙の発言に教室で、ほんの少しざわついていた他のクラスメート達も一瞬でしんと静まり返った。


「……えっ、あの、狼牙く……」

「つーか、あんた誰。なんであんたなんかと帰んなきゃなんないの。てか、馴れ馴れしいからさっさと手、放せよ」


吐き捨てる様に言い、彼女を見る狼牙の綺麗な金色の双眸は、凄く……凄く冷たいもので、狼牙の纏う空気も冷たかった。
彼女はたらりと冷や汗を流し、クラスメートもそんな彼女に同情なのか教室の空気の悪さからなのか、おろおろとした様に周りを見回している。
因みにおろおろしているのはオレも例外ではなく。
えーっと……、とりあえずどうにかしなくては……。


「ろ、狼牙、あの……」

「静、準備出来たのかよ」

「えっ、あ、うん。出来たけど……」

「じゃ、帰るか」

「え?!あ、わっ……ちょ、待ってっ」


解かれそうにない彼女の絡まっている腕を無理矢理引き剥がし、狼牙はオレの手を握ってそのまま引っ張る様に教室を出て行く。
ちらりと後ろを見れば、クラスメート達はぽかんとした表情でオレ達を見送っていた。





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