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■短編■
2


それからは無言のまま手を引かれた状態で帰った。
向かった先はオレの家ではなく、狼牙の家だった。
別に家に帰る事自体遅くなっても問題はないのだが、真っ直ぐ狼牙の家に向かっていたからどうしようかと思った。
……っていうか無言が怖い。


「あの、狼牙……?」

「…………」


家に着いて狼牙の自室に入っても狼牙は無言のまま……というかオレの方にさえ顔を向けようとしない。
なんとなく心配になって、とりあえず意識をことらに向かせようと制服の裾をくいっと引っ張る。
そうしたら狼牙はほんの少しだけ視線をオレの方へ向けてくれた。


「大丈夫か?……なんか、怒ってる?」

「……静に怒ってる」

「えっ?!オレに?オレなんかした?!」

「駄目って言ってくれなかった」

「…………んん?」


ぼそりと呟かれた言葉に首を傾げて、改めてどういう事なのかを聞こうとすれば、その前に狼牙が続けた。


「あの女がオレと帰るって言った時、静とめようともしなかっただろ」

「………とめて欲しかったの?」

「当然だろ。静と帰る気でいたんだから」


「お前馬鹿なの?」みたいな態度で言われてオレはぽかんと呆け面を晒し、そして両手で顔を覆って俯いた。
それをどう受け取ったのか、狼牙は驚いた様子で「静?!どうした?」と焦り出したが、正直オレはそれどころじゃない。
彼女が突然割り込んで来たから怒っているのかと思えば、オレが阻止しなかった事に対して怒っていて、しかもそれに対して子供の様に拗ねていて……。


(……ていうか、嫉妬、してたって事で良いのか……?)


……なんだそれ。こいつやっぱりギャップ萌を狙ってんのか。
『人狼族』で、その中でも珍しい銀狼で文句のない容姿の持ち主で学校でも人気があって……そんな狼牙が嫉妬とか……。


(何それ……めっちゃ可愛いんですけど)


両手で覆われた顔にはさっきから熱が籠り過ぎて汗がぶわわっと噴き出している。
拗ねてて可愛いとか、嫉妬してて可愛いとか、オレを優先してるとか……それを凄く嬉しく思ってどきどきしてるとか、絶対にバレたくない。


「静、大丈夫か?どっか調子悪いのか?」

「……んーん、平気。とりあえず、ごめんな。とめなくて」

「それはもう良いけど、次は駄目って言えよな?」

「……〜〜ッ、あああああ!!もう!!なんでそんな言い方するの!!(折角落ち着いてきてたっていうのに!!)」

「えっ?!わ、悪かった……?」


ちょっとこの人狼なんなの素直過ぎんだろ可愛過ぎんだろチクショーめ!!
こう……思いっきり頭わしゃわしゃ撫でまわしたい衝動が抑えられない!!否、抑えなかった!!
気が付いたらオレは狼牙をベッドの端に座らせ、髪がぼさぼさに乱れる勢いで狼牙の頭を思いっきり撫で繰り回していた。
けど、狼牙はどんなに髪が乱れようとも気にせずに、オレのなでなでをそれはもう嬉しそうに受けとめていた。


(尻尾千切れんじゃねって位めっちゃ振ってる可愛い……ッ!!)

「静、静」

「ん〜?なに……んぅ、」


嬉しそうな声音で名前を呼ばれたかと思えば、狼牙は首を伸ばしてオレにキスをしてきた。
始めは距離が少しあったからお互いの唇が触れる程度のものでしかなかったけど、オレが少し頭を下げた事によってソレは深いものへと変わっていった。
自分の身体を支える様に、狼牙の頭を撫でていた手を首に回してほんの少し腰を屈めれば、狼牙もオレの頬へと手を添わして角度を変えながら舌を這わす。
静かな室内には、お互いの乱れた息遣いと合間に漏れる水音とオレの声、そして身体を寄り添う事で起きる衣擦れの音のみ。
どきどきと高鳴る心臓の音も耳の良い狼牙にはもしかしたら届いてしまっているかもしれない。


「んぁ……ンッ……は、ぁ……」

「静……」

「あっ……待って、狼牙ッ」


どさりとベッドへ押し倒されて、首元では舌が、侵入した手は胸元を這い回る。
その行為に身体が小さく跳ねる為、狼牙は楽しそうに続けてくる。


「オレ、帰らないと、だから……」

「泊まってけば良いじゃん」

「や、そういう訳にも……シても良いから加減してくれ」

「……泊まれば良いのに」


むすっとした表情で渋々承諾したのか、狼牙の手つきがほんの少し緩やかになった。
それにほっとする様なちょっと寂しい様な複雑な心境の中、オレは狼牙の好きにさせようと身を委ねた。





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あきゅろす。
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