long(RIKKAI@)
挨拶と約束
《side仁王》
「暑いし空風おらんし今日がきっと俺の命日なんじゃ」
「勝手に死んでろぃ。羽月くんが休むたびにうるせーよ」
鬱陶しそうに丸井に睨まれる
最近空風の体調が優れないらしく、休みが多い
その度俺は退屈な一日に耐えている
「そんなひどい言い方ないじゃろ、ひどいのう」
「聞かされてる俺の身にもなれっての。どうせ今日も家に行くんだろぃ」
「当たり。空風も俺のこと待っとるからな」
風邪の時の空風はいつもより素直で甘えたになるから可愛いってゆうのは俺だけが知っている。思い出していたらいつの間にかニヤケていたらしく、丸井に軽蔑された目で見られて更には「うわキモ…」と呟かれ地味にダメージを受ける
部活を終え、颯爽と部室を出ようとすると柳から授業のノートを渡され、丸井からはこれ渡しといてくれと焼きチョコをもらう。あの丸井が人に菓子をあげることがあるなんて珍しいこともあるもんだと思いながら空風の家へ向かう
空風の家の扉の前に立ち、インターホンを鳴らすと開いた扉の向こうには見知らぬ人が立っていた
「空風の学校の友達かな?」
「………仁王雅治じゃ」
俺の名前を聞いた途端笑顔になる目の前の人
笑った顔がどことなく空風を連想させる
「待ってたよ。君が仁王君か、私は空風の父です。息子の話に君の名前がよく出るよ。さ、どうぞ上がって」
一礼をして空風の親父さんの後を追う
「いつも空風がお世話になってるね」
「俺の方こそ」
「空風は二階で寝てるよ。私は突然仕事が入ってしまったのでもうすぐ家を出ないといけないが、空風は頼んだよ仁王君」
羽月の父に仁王はペコリと返す
二階へ案内され、空風の部屋に入ると空風はやはり寝ていた
(最近はこいつの寝顔をよう見るな…綺麗な鼻筋と薄い唇は親父さん似なんかのう)
髪を梳いてみると、一度強く瞑られた瞼がゆっくりと開く
「まさ…くん?」
寝起きで回っていない呂律で名前を呼ばれる
「起こしちゃったか?」
「ううん、大丈夫。今日も来てくれたんだぁ。嬉しい」
にへらと笑う空風の頭を撫でると気持ち良さそうに目を細める
「水飲むか?」
「ん…飲む」
飲ませようか?とからかうと「自分で飲めるよ」と膨れる
熱を測らせると37.7とまだまだ熱はあるようだ。扉からノック音が聞こえてきて空風の親父さんが顔を覗かせる
「空風、起きたんだね。私は仕事へ行ってしまうけど大丈夫かい?」
「うん。仁王くんがいるから大丈夫」
「そうか、なるべく早く帰れるようにするからね。仁王君、空風をよろしくね」
空風の親父さんに会釈し、再び二人の空間が流れる
「今日は親父さんに看病してもらったんか?」
「うん。父さんの下手くそな料理も久しぶりに食べれた。でも途中電話がきてて仕事の事だろうなって思ったから俺は大丈夫だから行っていいよって言ったんだけど、父さん納得しなかったから後で仁王くんが来るから大丈夫って言ったら納得してくれた。そしたらマサくん本当に来てくれたあ」
嬉しそうに笑う空風に俺も微笑む
それで親父さんに待ってたって言われたのか
「俺が来なかったらどうしてたん、お前さん今頃一人ぜよ」
「そうだったかもね、でも今ここにマサくんいるからいいんだ」
「本当におまんはかわええ事言うのう」
熱い体を抱きしめるとぎゅっと抱き返されたので見つめるとニコニコと笑顔が返ってくる。顔の距離を縮め唇が重なるまであと数センチ。顔の角度を変えたところで
「あ、そうだ。明日大事な大会があるから風邪うつしちゃったら大変、マスクしとかないと。マサくんもしてね」
マスクを渡され言われた通りにつける。空風の綺麗な顔が隠れてしまうのは惜しいが仕方がないだろう。
「夏の風邪は長引くから気をつけんしゃい」
「そうだねぇ、大会初戦観に行けないかなぁ、ごめんね」
「どうせ俺まで出番回らんしええんよ」
「うーんけどマサくんが看病いっぱいしに来てくれてたのに…」
「そんじゃあ、この関東大会決勝まで試合勝てたら何か褒美欲しいのう」
「褒美?何がいいの?」
「それは勝ち進んでからのお楽しみ。決勝までには風邪治しんしゃい」
うん!と元気よく返す空風に飯にするかと飯の用意をする。
ご褒美…何にするかのう…
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