long(RIKKAI@)
お見舞と自覚
《仁王side》
「羽月、今日寄りたいとこあるけぇ、お前さんも来るか?」
「うん。どこに行くの?」
「幸村のお見舞いじゃ」
「精市くんのとこか。一緒に行くのは初めてだね」
「そーだな」
ん…?ちょっと待て待て
「え?は?精市くん?一緒に行くのはって」
「あ、そういえば言ってなかったね。少し前に栄養失調で倒れた時しばらく入院してたんだけど、そこで精市くんと知り合ったんだ。たまにお見舞いも行ってるよ」
幸村と知り合いだなんて話初めて聞いた…
病院で見かけたことなかったし
それに幸村も何も言ってなかった
「そーだったんか、まさか知り合いだったとはねぇ」
「知り合いだって話すタイミングなかったからね、それじゃあ行こうか」
二人で幸村の病院へ行き病室をノックすると中から「どうぞ、」と声が聞こえてきて中へ入る
「やあ、今日は二人で来てくれたんだね」
「よ、幸村」
「精市くん調子はどう?」
「うん、この通り元気だよ。空風も体調崩したりしてない?」
「この前風邪ひいてからは大丈夫だよ」
「君はすぐ体調崩すんだから気をつけなよ」
えへへと羽月が笑い幸村もそれにつられて笑う
かなり仲がいいように見える
「あ、俺喉乾いたからなんか飲みもん買ってくるね。二人は何かいる?」
「俺は大丈夫だよ」
「羽月、俺が買ってくるぜよ」
「いやいや悪いよ、それにお世話になった先生とすれ違えば挨拶もしたいし」
「そうか、それじゃあお前さんのチョイスで何か頼む」
お金を渡し元気よく了解!と出て行く羽月を見送る
「随分優しい顔をしているな仁王。お前にもそんな顔が出来るんだね」
羽月が出ていった病室の扉から幸村へ視線を送る。ニコニコとゆうよりはニヤニヤとした顔で言われる
「よく空風から君の話は聞いてるよ、随分仲がいいそうじゃないか。それにめんどくさがりな仁王がまさか看病とはねぇ」
「なんじゃ、そん時の話聞いてたんか。俺だってそんくらいするぜよ」
「それと、赤也から仁王が男の人とキスしてるのを見たって聞いたんだけど、まさか空風じゃないよね?」
黒い笑みを浮かべながら問われる
切原の奴あん時見てたんか。そーいやこの前話した時やけに挙動不審だったな
「あいつの口の軽さはなんとかならんのか」
他の奴の耳にも入ってたらめんどくさいことになりそうだなと頭を掻き溜息を吐く
「で、どうなの?」
誤魔化しは効かないといった目で問われ仕方なく答える
「ああ、したぜよ」
「へえ、付き合ってるの?」
「いや、付き合っとらん」
「じゃあ空風のこと好きなの?」
「…………」
「付き合っても好きでもないのにあいつにキスしたのかい?」
黒い笑みがさらに黒くなり、なんとなく目を逸らしてしまう
「…そんな簡単に好きなんて言えるもんじゃなか。俺らは男同士やし、なにより羽月が困まるじゃろ」
「結構考えてるんだねーへぇー」
あの仁王がねーと珍しそうに言う幸村に何も言い返せない
「そんな素直になれない仁王くんにいいこと教えてあげようか?」
何か企んでそうな意地の悪い笑みを浮かべる幸村をちらりと見る
「まあまあ、そんな睨むなって。実はその時の話空風からもされてね」
羽月がその時の話を幸村に?
思考が追いつかないまま幸村は続ける
「『仁王くんに俺が舐めてた飴取られたー』って言ってたあいつに結果的に仁王とキスしたことになるけど空風はどー思ったのか聞いたら、仁王、君だったから嫌じゃなかったって言ってたぞ」
嫌じゃない。それはどう捉えたらいいのだろうか。羽月は俺のことどう思っているのか。いや、その前に俺は羽月のことどう思っているのか。
黙り込み考えていると羽月が帰って来た
「ただいまーごめんね遅くなっちゃって」
「おかえり空風。先生には会えたかい?」
「うん会えたから少し話してた。あれ?仁王くんどうしたの?何か考え込んでるみたいだけど」
「空風が風邪ひいた時の話してて看病するなんて偉いじゃないかって褒めたら照れちゃったんだよ」
「プリッ」
なんて誤魔化そうか迷っていると幸村が助け船を出してくれた。いや、その返しもどーかと思ったが話は逸らしてくれたのでよしとしよう
「あの時は本当に助かったよ、ありがとうね。はい、仁王くんオレンジジュースと紅茶どっちがいい?」
「いや、ええんよ。それじゃあ紅茶で。ありがとさん」
「どーいたしまして」
それからも羽月と幸村は楽しそうに話していたが俺はどこか上の空のまま聞き流し、時間は過ぎていった
「それじゃあそろそろ帰るね。また来るよ」
「今日もありがとう、またね空風。仁王もまた」
俺はついでかと心の中でツッコミを入れながら軽く挨拶をし、病室を出る
夕暮の帰り道、羽月と並んで歩く
「精市くん調子良さそうで良かったね」
そういえば幸村も羽月のことを名前で呼んでいたな
幸村のあの質問。
俺は…
「仁王くん?」
いつの間にか分かれ道に着いていて
立ち止まり黙ったままの俺の顔を覗き込む
「空風」
あいつは一瞬驚いた顔をしたが、またすぐいつもの柔らかい笑顔になる
「なあに?雅治くん」
名前を呼び返され胸が大きく跳ねたのが分かる
「また明日な」
「うん、また明日」
あいつの背中が遠くなる
未だに鼓動の速さは収まらない
曲がり角でこちらを見て大きく手を振るあいつに俺も小さく手を振り返す
俺は空風が好きだ
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