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07 お約束の展開


「ほら、買うて来たで」


枕元にそれを置くと、一氏はだるそうに身体を起こす。


「ええって。うち出すから、一氏は寝とき」
「これ以上瀬野に頼ったら、俺のプライドが許さへんねん」
「…なんのプライドやねん」


一氏が玄関で倒れてから、それはもう大変やった。小春ちゃん使うて、なんとかドアを開けてはもらえたけど、その後は一氏の

「帰れや」

の一点張り。

そしてうちの

「帰らへん」

の一点張りが、10分は続いた。けど、どうやら一氏は体力の限界らしく、結局うちの勝ち。ま。うちが一氏に負けるやなんて有り得へんけどな。


「解熱剤と、冷えピタ。あと、一氏りんご食べれる?」
「…おん」
「なら、キッチン借りてもええかな?切ってくるわ」
「荒らすなや」
「りんご切るくらいで荒らすか!!」


こいつ、うちの料理センス知らんな。自慢やないけど、家庭科はいっつもオール5なんやで。…まあ、りんごに料理も何も関係ないけど。


「下行くなら、ついでに水持って来いや」
「水?」
「水ないと薬飲まれへんやろ」
「あ、それ水無しでも大丈夫やで」
「…………」


あら?黙ってもうた。


また気分悪なったんかなと一氏に近づくと、


「…なんやねん」


…睨まれた。一氏って、睨むとめっちゃ怖い。


「水いるん?」
「せやから持って来い言うてるやろ」
「…一氏って」
「…………」
「水無いと薬飲まれへんタイプ?」
「…ええから早よ下降りろや!!トロイんじゃぼけ!!」


あーあ。熱あんのにまたそんな叫んで。


「はいはい。んじゃキッチン借りまーす」
「…………」


いつもやったら、一氏に"トロイ"とか言われたら言い返してやるけど、まあ今日は仕方ない。それになにより…


「水無いと薬飲まれへんとか…プッ」


案外かわええとこあるやん。今度言い合いになったときの最終兵器に使おう。絶対この話出したら、一氏黙んで。

うちは軽くスキップを踏みながら1階にあるキッチンへと向かった。


「一氏ー、りんご切れたー」


うちのスーパー包丁捌きで、約5分。一氏の分とうちの分(めっちゃお腹空いててん)のりんごを4つ剥いて、皿に盛り付けて部屋に戻る。もちろん、水も忘れずに。


「一氏?」


…が。奴は寝ていた。まあ、あんだけ叫べば疲れて寝るわな。



「…ちゅーか」


なんでお腹出して寝てんの。せやから風邪引くんやんか。学習能力ないなあ。毛布もかけずに爆睡しとる一氏。顔色もさっきより大分マシになったみたい。

そういえば、今日の一氏なんや違和感あるなあ思うとったら、そうや。いつものバンダナがないんや。と、今更気付く。いつもみたいにきっちりセットされた髪は、今日はぐしゃぐしゃ。なんか、おかしい。


「…………」


…って!キモ!うち今1人で笑うてた!なんか口元がニヤってなってた!

……………。


「一氏?」


名前を呼んでも、いつもみたいな憎まれ口は返ってこうへん。返ってくるんは、規則正しい寝息だけ。


「あほんだら〜」


鼻を親指と人差し指で抓んでやると、ぴくりと眉が動いた。お。起きるか?

そう思った、瞬間。


「!!」


あ、れ?


「ン゙〜…」
「一氏さーん?」


うちは今、一氏に抱き締められとる。


























お約束の展開
(これ、どないしたらええの?)






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あきゅろす。
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