短編 補足:中西SIDE 腹の中が煮えくり返りそうだった。 出来る事ならこの手紙を出した女の爪をじわじわと剥ぎ取り、汚らしい指を切断し、先輩を見詰めているであろうけがらわしい瞳をくり抜き、媚るような存在を目茶苦茶に切り裂いてやりたい。再起不能に叩きのめし、出来るならこの世界からも抹消させ、二度と先輩に近寄る事の無いように殺して殺して殺し尽くしてやりたい。 今すぐその女の喉をかっ裂いて、泣きわめく間すら与えずに、その女を消し去ってやりたい。 自分の中に、こんなにもドロドロとした汚濁に満ちた感情があった事に内心苦笑する。 きっと俺は今、酷く醜い顔をしているのだろう。 先輩が言葉も無く目を丸める姿が視界に入り、怯えさせてしまうのではないかと少し心配した。 アンタに、怒ってるんじゃ、ないよ。 苛々と沸き立つ感情の侭に汚らわしい――『好きです』と書かれたゴミをビリビリに破り捨て、先輩の目を見ながらゆっくりと真実を塗り替えてやる。 『これ、ラブレターじゃなくて嫌がらせ。死ねって書いてあるよ。……嫌だね。ムカつくなぁ』 先輩は困惑したようにうろたえた。中西、と不安を滲ませた声で俺を呼ぶ。 『大丈夫だよ、先輩。俺がアンタを守ってあげる。』 アンタを俺から奪おうとする全てから俺が守ってあげる。 心の中で付け足した言葉は先輩には聞こえない。困ったような、安堵したような溜息を漏らした先輩の後に続き、俺は先輩と二人で帰路に着く。 先輩を好きになるのは、先輩が好きになるのは、先輩の傍に居るのは、先輩と歩んでいくのは、 俺 だけ。 俺 だけでいい。 俺 しかいらない。 先輩には、俺しかいらない。 先輩を好きだと抜かす手紙の女も、先輩と笑い合う先輩の友人も、家族も、他人も何もいらない。いらないいらないいらないいらない。 いらないんだよ。 先輩と歩きながら、俺はこれからの事を考えた。 先輩を独り占めするには、どうしたらいいだろう。どうすれば周りから先輩を"守れ"るんだろう。 どうすれば、どうすれば、……どうすれば。 どうすれば、アンタは俺だけを見るんだろう。どうすれば、アンタは俺のものになるんだろう。 「中西?」 ――いっそ。 「ねぇ、先輩。」 思い浮かんだ考えは、とても良いものに思えた。 考え込む俺を愛らしく呼ぶ先輩の優しい声に、俺は目元を柔らかく蕩けさせる。 ―――俺以外を追い払ってしまおうか。 これがいい。これが、1番だ。 先輩の周りに先輩にバレない程度に嫌がらせでもして、先輩から遠ざけよう。先輩を"守って"あげよう。 今日の手紙の中身を嫌がらせだと信じさせなければいけないから、先輩にも多少の"嫌がらせ"をしなくてはならないけど。 でも、"守る"為だから。大丈夫。仕方ないよね、先輩。 だって、アンタには、 アンタには、そう、アンタには 「アンタには、俺しかいないんだよ。知ってた?」 ねぇ、そうでしょ、先輩。 だからね。俺がアンタを"守って"あげる。 "俺以外"の全てから、俺がアンタを守ってあげる。 END [戻る] [*もどる] |