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最遊記ドリーム
…ユエ、ナビク[悟浄]






 賭博は嫌いなんかじゃない。むしろ得意で大好きな方だ。手に入れた幸運と大金に女が群がる様ってェのは、実に自分に似合っているネ。
 ただしそれも勝ち続けていればの話。負けが混んだギャンブルほど嫌いな物は無い。運も金も女も逃げて虚しさだけが寄り添って来る。一人夜道をとぼとぼ歩いてあの時あっちにしていれば、なんて後悔の海に溺れる姿は、沙悟浄様の名にすたるってェいうものよ。
 すたれ切った名をヨイショと背負って、今日も夜風に酔いを醒ます。宵越しの金は持たぬ主義。余韻ばかりを胸に抱いて、良い子良い子で帰路に着く。
 ハァ、サノヨイヨイ……。


「悟浄、帰ったか」
 おんやまあ。深夜であるにもかかわらず、若い娘がお出迎えとは…。どうせなら三つ指付いてにして欲しかったネ。
「由希ちゃん、まだ起きてたの?つかどっか出掛けるワケ??」
 由希の部屋の前で会ったんだったらそんな事聞きやしないんだが。扉一枚隔てて内と外ってェ場所。いくら夜の散歩が大好きったって、由希だってオンナノコ。その点でなら性格破綻の金髪美人より危険度はずっと増す筈だ。やっぱり、俺が守ってあげなくちゃあ。
「まったく…、帰って来たばかりで働かせないでよネ」
「おいコラついて来る気かよ?逆に危ないだろーが」
 その言いぐさは無いでショ?こっちは眠いの堪えてボディガードに徹するつもりだってーのに。ああ、何だか今日はとことんツイてない気がするなあ。……ってアレ、何笑ってんのかな?
「草の上だからな、煙草の火ィ落とすなよ?ま、火事になったらばっちり目撃証言しといてやるけどさ」
 いつの間にやら同行が許されてるみたい。どこに行くかも知りたいし。ほんじゃま、行ってみましょうかね。





 月夜のデートもなかなかオツな物。とは言えここはどこなのか?何だか膝丈の草がぼうぼうと…。
「ゲッ、蚊に刺された!だああ、チクショ!何だよここ蚊だらけじゃねェの。おーい、由希。ゆーきちゃんてばー」
 先を歩く由希からはまた返事が返って来ない。こういう時、何を考えているのか分からなくて困ってしまう。向こうも、闇夜でこっちの居場所が分かりづらいのかもしれない。とりあえずのろしでも上げとくか…。
 玄関先にガラスの灰皿が置いてあって、出掛ける直前それを由希に押し付けられた。こんな所で使われようとは、よもやコイツも思ってなかったろうになァ。だけど使い終われば何だか重くて邪魔なシロモノ。他の用途は無いものか、色々考えてはみたけれど、どうにも集中できそうにない。とりあえず頭に乗せてみた。何でかって?両手をポケットに入れたかったんだよね。これ以上手の甲を蚊に刺されたら、かゆみで何も手に付かなくなる。
 気が付けば、由希が寄って来ているし。俺の顔覗き込んじゃって。惚れたかな?ガラスの王冠かぶった王子様よ?
「あーっっっ!!」
「エェッ!?何ナニ!?」
 指差した先はお月サン。…それが何、どうしたの?三日月が綺麗に上ってるね。他は何も見当たらない。アレ?今いた由希ももう俺の側では見当たらない。ちょっと待てよ、ガラスの灰皿も見当たらないぞ。なまじ透明なもんだからこの草の丈じゃ見つけるのは容易じゃない。
 ところで俺、何で由希に笑われてんの?……あ、そーゆー事。やりゃあがったな。
「ちょっとォ。それはないでショ、由希ちゃーん」
「いやー、ここまであっさり落っことすとは思わなかったからなあ。まあ頑張って探したまえ。吸殻も拾えよ?」
 ちょっと悔しい。いやかなり。灰皿もやっぱりなかなか見つかりゃしないモンで。
 それでもちょっぴり、何かが楽しい。





ようやく由希に追いついた。
「悟浄ってさ…」
「んー?」
 俺様ってカッコイイ?ま、当然の事だけどね。今夜は由希も俺にメロメロの御様子だ。だけどここは男として余裕の笑みで迎えましょ。イイ男は焦らない。続きは女から言わせなきゃあね。
「意外と悟空以上に引っ掛かり易いよな。天然なんだろうけど」
 ガーン……!!
 ちょっと待て、俺ってそんなに単純なのか?天然てのは無いだろう。せめて素直と言ってくれ。しかも…。
「オイオイ、比較対象があの猿ってのには流石の俺も怒っちゃうヨ?」
「意外と素直なんじゃないかって話」
 オヨヨ、ちょっとちょっと。このタイミングは反則だろう。どんな顔してイイのやら。だけどやっぱり嬉しいね。ズバリ見抜いて言い当ててくるんだから、由希って本当に凄いよ。サイコー!!
「弟の可愛さってこんな感じなんだろうな。末っ子ぶりが板に付いてる」
 ズッガーン……。由希、君は俺を天国と地獄のどっちに置いておきたいワケよ?
「由希は下、いないワケ?」
「僕は一人っ子だよ」
 なあるほど。自由奔放な性格はそこから来ている訳なのかな。それなら俺だって似た様な物。そうだよな、似た様なモンだ……。一人っ子と同じだよな。兄弟どころか、母親だっていやしないんだから。兄貴がいたのはもうずっと昔の事。母親がいたのは遙か遙か遠い記憶。一人は気ままで自由だった。だから、俺の家族は俺っきり。自分を守ればイイだけの事。たった、それだけ。
「顔、上げろよ」
「……あ?」
 あァいっけね、ついついどうでもいい事考えちまって由希がいる事忘れてた。こんな顔は見せらんねェよな。さあ、笑った笑ったァ!
 アラ、由希?あごに柔らかい手が。髪を掻き上げてくれちゃって。顔がとっても近くって、アラアラアラもしやとうとう?これはラッキー!……ん〜ゆーきー♪♪
「髪、靡かせてろよ」
「……は、髪?」
 と、突然何だろう?ええーっと…。キスシーンで髪を靡かせるのは、難しいんじゃないかなあ??





「落ち込んでたり悩んでる時、よく髪で顔隠してるよな。弱っちく見えるんだよ」
 ……は。よ、弱っちいっ!?そ、そりゃ酷くない?この無敵の沙悟浄様にさ。だいたいそれってたまたまなんじゃ…?別にそんなつもりで伸ばした訳じゃあないんだし。これは三蔵様へのイ・ヤ・ガ・ラ・セ♪
「ほおら、顔上げて。しっかり前見る!頼りたい時にはいつでもみんな後ろにいるんだから。心配せずに突っ走る!それが末っ子の特権ってモンだろー?」
 前を向くと由希ちゃんのカワユイ笑顔が間近になっちゃう。よしよし、このまま前進しちゃおう。…っっ!あいてェ!!
「口じゃなくて耳使えよ!ちゃんと人の話聞いてるか!?」
「ひょ、ゆーきひゃん……!」
 耳引っ張りながら口に小指まで突っ込みますか!?スンゲー器用なんですケド!
「うりゃっ、どーだ!?」
「ひて!ひてー!聞いてまふー」
 そんなに怒んなくてもイイじゃないの。分かった分かった、ちゃんと聞きますってばよォ!っあー、痛かったァ…。で、えーと何だっけ??
「いや、頼るったって必要無いだろ。由希ちゃんには頼るんじゃなくて頼って欲しいのヨ、俺は!それに他には頼れる相手なんていないでショっての。俺が一番強ェんだから!それとも何かい、守ってェ三蔵様〜とでも言えってーの?」
 あははははー!……って、笑ってよちょっと。あ、何そのクスリって笑顔?やめてくんねェかな、そんな笑いは。俺が何だかガキに見えんじゃねーか。
「なるほどな、そこでその名が出るって事は、三蔵にはちゃんと頼ってるワケだ」
「ゲゲッ、それはナイっ絶対にっ!!何言ってんのー!?」
 一体あの横暴さにどう頼れっていうワケよ!?母親みたいに俺のやる事全てに文句付けてきて。行動は管理するわ、あいつの許可が出なきゃ何もできないわ。まったく、たったイッコで年上ぶりやがって。こっちが激発したところで向こうは飄々と余裕顔。口答えすりゃ銃かハリセン。世に言うワガママな兄貴って、まさにこんな感じじゃねェ?そーいや、銃で心臓の横撃たれたりもしたっけな。だーれが助けて貰ったなんて思うかよ。あの生意気な顔に礼なんか言う気はさらさら無いね。毎度毎度、我が道を暴走しながら俺達にはついて来いなんて。馴れ馴れしく名前を呼ばれる度にオゾケが走るんだよ。そーよ、そんな事絶対無いっての!
「俺ってさあ、由希ちゃんにはそんなに弱く見えるワケ?」
 あらら、ちょいと。どーこ行っちゃうのかなー?
 月夜の由希はすこーし不思議。妖艶とも言えるんだけど、昼間の迫力とは全然違う。こんな女は珍しいからついついついて回っちゃうけど、なかなか手の内見せてくれない。すぐに距離を取りたがるんだな。近づく分だけ離れてく感じ。でもそれがまた面白くってネ。だからサ、いっくらだって追っかけてって差し上げますよォ!
「ここさあ、昼間に散歩し損ねたんだよね」
「…ここって、ココ?このヤブ蚊だらけで何にも無いこの場所??」
 もっといいとこ散歩すりゃいいのに。いや由希の事だから、他は散歩し尽くして飽きちゃったのかもなあ。俺に言ってくれりゃあ、いっくらでもイイトコ連れてったげたのにサ。やっぱ信用されてないのかしらネェ…。
「夜に来るつもりはなかったんだけど、今日は悟浄がいたからな。ここまで蚊が多いとは思わなんだが」
 ホント、多いよね。由希もかゆそう…でなくって。俺がいたから、か。イイね、それは気に入ったゼ!?だけどそれって由希がオンナノコだって証拠だろうに。偉そうな事言っちゃっても、オンナはオトコに守られる、それが世の常ってモンじゃないの!





「俺がいないとここに来れなかったワケね?やっぱ、おっかないんでしょーに」
 ホント、素直じゃないんだから。今夜の不思議な迫力はその照れ隠しだね、きっと。
「木も無い草原は隠れる所も無い訳で。女はね、それだけで怖いなあって思う時があるんだよね」
 ありゃ素直?珍しい。だったら俺もオトコっプリを見せてやらなくちゃあ。
「怖くなんかないよ?俺が守ってあげるから」
 ここで肩なんか抱いたりしちゃってネ。お、よっしゃあ!由希も抵抗しないゾォ♪
「オンナノコはオトコに守って貰わなきゃね」
 そーそー、由希はオンナノコなんだから。ほうらもう頼り甲斐のある俺の胸に沈んでいって…。
「でも男だって怖い時くらいあるだろう?」
 イタズラっぽい笑顔がまた可愛いんだなー♪…って、はいぃっ?男が怖い時?夜道で襲われてキャーなんて事は無いと思うが。いや確かに例外はあるけども。
「オトコノコも守って貰わなきゃ、な?」
 ああもう、そう言いつつまたあっさりと逃げちゃうんだから…。あんまり遠くへ行かないでよね。
 だけど男が守られるってーのは何だ?それは一体どんな時?誰に?女の子に?何を言ってるんだかなァ由希は。男が女に守られるなんてのはガキの時だけよ。
 ガキの時、だけ……?
 風の音が聞こえる。耳の中でだんだん大きな音に変わっていく。まだそんなに強く吹いてはいない筈なのに。けれどそれでも、髪が靡くほどには。傷跡をかすめて赤い業が視界を遮る。涙する女、それを殺す男、そして何も出来ない自分…。暗転。違う、暗がりじゃない、赤だ!
 赤い闇の向こう、霧が晴れて由希が見える。月光を背負ってこっちを見てる。真っ直ぐと強い瞳で。やめてよ由希。嫌だね、そういう話かよ…。
「由希母さんはずっと心配です、ってかァ…?しょってるねェ」
「いやいやいや、そんなんじゃあないッスよォ。やだな」
 そうは言っても、何だか意味深に聞こえるセリフ。彼女の場合、どこまでが本気か分からないから怖いんだ。しょってるなんて実は嘘。ホント言うとずっと思ってはいたんだよな。不思議なんてモンじゃない。下手するとこの娘はヤバイ。ヤバすぎるって…。こういうところが容赦ねェんだ…。
 ポケットに両手突っ込んでサ、楽しそうに俺を見ながらバック歩行。軽く笑ってるけど、俺の深い闇の奥まで見透かすようなあの瞳。一行のメンバーに相応しい強さを誇っているのがよく分かる。
 大丈夫だよな俺。顔上げられてる筈。月明かりは弱いけど、それほど暗い訳じゃない。俺…。俺は今、…どんな顔して笑ってる?
「たださ、ちょっと思っただけだよ。なァ悟浄。顔上げて好きなモン追っ掛けてろよ。そうやって髪、靡かせてな」
 髪が、靡く…。ああ、また風が出て来たね。綺麗な三日月が見えるよ。綺麗な横顔で由希も笑う。目を細めて、ゆっくりと。このまま時が凍り付いたら。いつもだったらハッピーなんだろうけどネ、今日はとてもそうは思えないかもしれないな。彼女の不思議な妖艶さ、今夜のはちょっと迫力も意味も違ってる。参ったな、降参だよ由希。このまま全速力で宿に逃げ帰ったりしちゃったら…怒らせちまうんだろうなあ、やっぱり。
「僕には母親みたいにはできませんて。でもそんな風に役立てられる時は使わにゃ損だから。いっくらでも、力になれまっせー!?」
 好きなモンはいつだって追っ掛けてるヨ。女の子なんて特に好きで。どうだろう、俺の髪はそんなにカーテンやってたか?
 だけど俺にだってちゃんと分かる。分かってるんだ。守られないで育った俺は、まだまだガキだって事なんだろう。笑っちゃうねェ。俺にも、聡いアンタにも。
「んん?聞ーてっか、悟浄?」
 彼女は心乱す台風、巻き込まれる竜巻。俺の孤独を由希が吸い取っていく。辛い赤も、理想も現実も。そうやってまた惹かれていくんだ。日増しに由希の風は強くなっていく。
 きっとサ、今のアンタのセリフは世に言う『母親』ってヤツが言うセリフと同じだと思うんだ、多分。だって今夜の俺はこんなにも…。
 目を閉じれば深紅が広がる。赤い闇の向こうに追い掛け続けたシルエット。
 ほら、いつだったか花をあげた事があった。あの時は受け取って貰えなかったね。俺の髪と同じ血の色だって、嫌いな色だって。不思議だな。今日ようやく受け取って貰えた気がするよ。たったそれだけが、こんなにも嬉しいモンなんだな。
「聞いてるよ。サンキュ、由希」
 こんなに側にいてくれてるのに、今日は目の前にデッカイ壁があるみたいだ。男と女の壁と言うより、それは……。
 今夜はここまで。そうしよう。これ以上は進めないね。
 だあけどさァ由希、いまいち納得行かないんだよなァ。どうせなら一度くらいは男としても見て貰いたいんですケドねェ?最後の勝負、行きますか!?
「もーやあだなァ、由希ちゃんてば心配性なんだから。そこまで俺を弱い奴に仕立て上げないでチョーダイよね?」
 軽くあごを上げさせて顔を近づける。でも…。
 あぁーあ。やっぱりそこで笑っちゃうんだ……。





 まったく、夕べは結局眠れやしなかった。ジープで寝たからイイけどね。今晩の宿も決まった事だし、夕飯前に気晴らしでも行ってくっかね。
「悟浄、街に行くなら頼みがあるんスけどー…」
「分かってるってーの」
 オタク、掻きむしり過ぎ。薬買うなら長居はできそうにねーかなあ。夜の約束取り付けて、逃げられない娘を探すっきゃない。でも、どうせなら…。
「イイコで待ってな。帰ったら俺が薬塗ってあげっから。そらもう体中優〜しくね♪」
「仕方無い、自分で買って来るか…」
「だあー、分かった分かった。冗談だってば!」
 ホント良く笑う。笑顔は最高なんだけどね。
「んじゃ宜しくー。帰ったら僕が薬塗ってあげるよ。そらもう刺された所ゼェ〜ンブにねぇ」
「フーン、じゃあまたいろんな所刺されて来よっかなー♪」
 いってェ!冗談だってーの。だいたい長袖だったから手しか刺されてないの知っててそれ言う由希もズルいでしょー!?んでもまあ、手だけでもラッキーな方なのかな。ほんじゃま、行ってみましょうか…。
 ああまた、風が出て来たよ。髪が、靡く…。靡く赤毛に揺れる業。弱音を吐くのは夕べだけでいい。
 知ってるよ、アンタが俺に靡かない事。俺がアンタに許してないから。アンタが女というだけで、只の女にしか見えない事。それをアンタは知っていて、かわしながら許してる。母の愛なんかいらねーって、ずっとずっとそう思ってた。だけどな由希、風変わりな母性持ちのアンタにだけは、この強がり見抜かれたっていい。そう俺は思ってるよ。男だったら良かったのに、なんて思ったオンナは、もしかしたらアンタが初めてかもな……。
 馴れ馴れしいくせ捕まらない。図々しいのに弱くって。それが由希。
「……故、靡く」
 まあいいさ。背中合わせにお互い好きなモン追っ掛けてさ。俺の髪はアンタの背中に向かって靡きゃあ、それで幸せだね。


 惚れた女はいやしない。惚れたい女もいやしない。俺は男で女は女。それだけ知ってりゃこの世は大勝ち。勝ち逃げ人生まさに上々!!
 ハァ、サノヨイヨイヨイとくらぁ!


 '04/07/09


《了》



B型ってな未知の存在なので、こんな感じかなーと思って書きました。もっとカッコ良く書いてやりゃ良かったな。



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