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最遊記ドリーム
夢うつつ[八戒]●番外編●

番外編。
亜美様よりリクエスト、八戒の甘夢です。



 ある宿屋の早朝。
 部屋一杯に朝日の光。眩しい窓の外は白色に染め上げられている。静かな明るさに雀の鳴き声が微かに届く。心地の良い暖かさ。
 昨日泊まった部屋はベッドが四つの四人部屋だった。じゃんけんで負けた悟空一人が床に布団を敷いて眠っていた。
 悟空、悟浄、三蔵は朝食を取るべくすでに部屋を出て行っている。その中で惰眠を貪っているのは、窓際のベッドを陣取った唯一の女性メンバー亜美。腕と足を出して毛布を抱きしめ気持ちよさそうに眠っている。明るい窓に向かって眩しくはないのかと、一人残った八戒は少し疑問に思ってみた。
 布団を片付け、八戒はそっと寝顔を覗き込み声をかけた。
「起きてください亜美、みんなもう朝食とりに身支度して出て行っちゃいましたよ」
 目を瞑ったまま亜美が身じろぎした。
閉じた口元がむにゃむにゃと動き、んーとかむーとか生返事をしているようだ。
「亜美?起きてるんですか?」
 態勢を変えないまま亜美はもごもごと言葉を発した。
「……まだ……寝るの……。八戒の、バカ……」
 どうやら亜美は八戒に甘えているようだった。亜美の頭に手を置き、八戒は静かに語りかけた。
「ほら、早くしないと僕も行っちゃいますよ。亜美はご飯食べられなくてもいい……」
 言いかけて気づいたが、亜美が食事を抜くのはいつもの事。誘惑にはならないなと別の起こし文句を考えていると、背を向けたまま亜美が今度は唐突に泣き出したのだ。
「……ぅえっ……八戒、行っちゃやだ……うあーん」
 目は閉じたまま。どうやら寝ぼけているらしい。普段と違った口調も、根底にある素が出ているのだと気づき、八戒はちょっと驚いていた。亜美の内面にこんな可愛らしい部分もあったのか。
 亜美が先程より少しだけはっきりした口調でまた嘆願を吐き出した。
「八戒がいなくなったら、生きていけない……やだ、行かないで。ここにいて……」
「……亜美?」
 あまりの熱情ぶりな台詞に、八戒も少々顔を赤らめる。亜美の前に片手をついて、顔を覗き込んだ。驚く事に、亜美は目を閉じたままでボロボロと涙を零していた。
 八戒は亜美の髪を掻き上げてやり、そっと顔を近づけた。白い素肌に唇で触れてみたかった。
「僕はここにいますよ。ほら、一緒に行きましょう?」
 頬を軽くつけると、亜美が頬ずりして口を近づける。一瞬八戒はどきりとしたが、毛布から両腕が伸びてきて、未だ寝ぼける亜美に首を抱きすくめられてしまった。そして八戒の唇は、動く亜美の口元に覆われた。
「八戒、一緒に連れてって……大好き……!」
 数秒で離れた顔は、あまりにも愛おしくて、八戒はたまらず体を戻して立ち上がった。
 引き剥がされた亜美の手がそのまま八戒を追って伸ばされる。口元を手の甲で覆い、赤くなって凝視する八戒の眼前で、はっ、と亜美が目を開けた。
「…………?」
 今までと違う様子に八戒も気づく。
「……あれ?……何だ?……今まで、なんかしてた……?」
「……今起きたんですか、亜美……」
 呆然と手を上げたまま固まっている彼女に、告白された側は余裕を持って対応しようとしたが、うまくはいかなかった。ゆっくり近づくと、亜美も目を擦りながら起き上がった。
「……はれ、なんか泣いてる。なんか喋ってたのは覚えてるんだけど……。悲しい話でもしてた?」
 ぎこちなく口を動かして、八戒は一つため息をつくと、亜美に笑顔を向けた。
「いえ、気にするほどの話ではありませんよ。ほら、起きたなら朝食とりに行きましょう。早く着替えて」
「……ん」
 毛布を剥いでベッドから降りたところで、八戒も部屋の外に出て行った。
 扉に背を預けて、微かに触れた口元を指でなぞる。もう一度軽くため息をつき、目を閉じて、忘れようとした。
 いや、忘れてはいけない事なのか。あれは亜美の本心ではなかったのだろうか。
 扉が押されて亜美が出てきた。
「はわー、お待たせ。食欲ないなあ」
「食べなきゃ保ちませんよ」
 平静を装って八戒も自然に振る舞おうと返事をしたが、顔が赤い自覚があって、あまり見られないように先を歩いて行った。



みんなで朝食をとり終わり、ジープに向かって亜美と並んで歩いていた八戒は、ふと彼女に尋ねてみた。
「亜美って、甘えるのが苦手なんですかね」
「ん?んーどうだろ」
「普段は女の子らしく甘えたりしてきませんよね」
「すみませんねえ、可愛げがなくて。何か寝てる時暴言でも吐いた?」
「バカって言われちゃいました」
「それは可愛くないね」
 けらけら笑って先に行こうとする亜美に、八戒はもう一度声をかけた。
「亜美は、今までの恋愛遍歴は満足いくものでしたか?」
「恋愛遍歴〜?なんで突然。んーまあそれなりに」
「……好きになった人に優しくしてもらえましたか?」
「……うん」
「それは、良かったですね」
「なになに何の話?」
「亜美ちゃん何かラッキーな事でもあったの?」
 悟空と悟浄が割り込んできて、それ以上話は進まなかった。しかしそれでいいのだ、と八戒は微笑んだ。
「とっとと行くぞ」
 三蔵の号令でジープに乗り込む五人。
「さあ今日も張り切って行きますよ」
 アクセルに力を込めて、ハンドルを握りしめた。八戒の後ろで亜美が後部座席の二人とほがらかに笑っている。
 このままこの先を二人で歩いていったら、どんな未来に辿り着くんだろうか。
 八戒は小さく笑って遥か先を見渡した。



《了》


 '15/04/26



甘いでしょうか?どうでしょう。
亜美様のみお持ち帰り可です。どうぞ。





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あきゅろす。
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