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最遊記ドリーム
正直者のあなたへ






「悟浄、悟浄!これすっげーよ!この街の店、全部網羅してっぜ!」
 悟空が手にしているのは、買物のついでに八戒に買って貰った食べ歩きマップである。
「おっ、この店可愛い子揃ってんじゃん!こりゃウエイトレス食べ歩きマップだな」
「…って、返せよ!俺まだ見てないんだから…あっ!」
 取り合いの末、小冊子は宙を飛んで開いていた窓の中へと姿を消してしまった。その建物は宿泊中の宿。そしてこの部屋は…。
「何だ、由希の部屋じゃん。おーい、由希ー!」
 悟空は呼びながら窓に近寄った。すると突然、小冊子を持った由希が窓の下からにゅっと生えてきた。タイムリーすぎて驚いた二人に、由希は更に怪しげな態度を見せる。
「あなァたの落としたのはァ、この食べ歩きマップですかァ?」
「…何で喋り方変なのよ、由希ちゃん」
「そう、それそれ」
「それともォ〜」
「??」
 ごそごそと何かを取り出そうとする由希に、悟空と悟浄は顔を見合わせてつい続きを待ってしまった。
「この八戒のエンマ…もといスケジュール帳ですかァ?」
 引きつった顔で一歩下がると、二人はそのままの状態で固まってしまった。





「な、何でそんな怖いモン持ってんだよー。そっちじゃなくて…」
「だああ、待て悟空!」
 悟浄は悟空の口を押さえた。どうやって手に入れたのか、あまつさえ本物かどうかも分からないが、そんな物を持っているだけで自分達の身が危うくなると感じたからだ。
「正直に言って、うっかり貰っちまったらヤベェだろっての。八戒のエンマ帳に自分の名前付け足してェのかよ!」
「そ、そっか。でも、嘘ついたらマップも返して貰えないじゃん」
「だいたいお前がムリヤリ奪い取ろうとすっから…」
「あーっ、何だよそれ!?俺のせいだってーのかよ!」
 いつもの喧嘩を前に、由希は無表情で暫く考え込んでいた。そしてさらに取り出したもう一冊。
「決まらないのであれば、こちらの三蔵らぶりぃ日記帳なども追加して…」
「ありえねぇっての」
 間髪入れずにツッコミがハモった。





「なーなー、もっと他に無いの?」
 既に目的を忘れ去った様なノリで、悟空が選択肢の追加を要求した。
「この中に目当てのブツは無いのかな?」
「いや、あるんだけれどもね…。つか何やってる訳、オタクは?」
 ようやく本来のツッコミ所を思い出した悟浄だったが、あっさりと無視された。
「では何故答えないのかネ?」
「八戒のは怖いから欲しくないんだもん」
「なるほど、これは人気が無いようだな」
 そう言うと由希は、八戒のエンマ帳をあっさりゴミ箱に投げ捨てた。その大胆な行為に絶句して、二人は体を引きつらせる。目の当たりにした光景に耐え切れず、あれは偽物だったのだ、と無理やり思い込む事にした。
「さあ、本物はどちらカナ?」
「何か趣旨が変わってきてんじゃないの?」
「本物かって聞かれたら、三蔵日記は明らかにニセモノだよなあ」
「ならば…」
 と、また由希は三蔵らぶりぃ日記もゴミ箱へと放り込んだ。今度は二人共声を上げていた。
「えっ、それも捨てちゃうのか!?」
「ああーっ!偽物と分かっていても、読んでみたかったあー!」
 趣旨を変えているのは誰なのか。ここまで来ても、食べ歩きマップは未だ戻って来ない。





 残った冊子は一冊になった。当初からの目当ての本だけ。しかし…。
「消去法ではつまらないので…」
 と、また由希はごそごそと動き出す。
「まだあるのかよー」
「次は『由希のプライベート写真集』っつーのがいいなあ」
 悟浄のリクエストに当たらずも遠からずと言ったこの一品。
「街の女の子プロフィール集!マニアから手に入れたレアもんだよー」
「うっそ!マジ!?」
 悟浄が浮かれ出す。
「正直に言ったら全部貰えるんだよな?だったら…」
 マップを指差そうとした悟空に、由希はあっさり言い放った。
「そんな事一言も言ってないぞ」
 驚いて手を止めさせた悟浄が、泣きそうな顔で抗議した。
「ちょっと待てよ、じゃあ選ばれなきゃゴミ箱行きになっちゃう訳!?そんなあーっ!」
「ゴミ箱やめて暖炉の中にしよか」
「猿、ここは諦めろ。ま、人生イロイロあるってモンよ」
「って、お前あれ選ぶ気かよ!ふざけんなよなーっ!」
 口論をよそ目に、由希は最後の一品を提示した。それは冊子ではなかった。非常に見慣れた物。





「ラストにこの魔天経文!」
 きょとんとした顔で二人は三品を見守った。
「さあ、暖炉の準備はオッケー!欲しい物はどれだ!?」
 究極の選択だった。この中から、絶対に燃やしてはいけない物を選ばなければならない。
 二人の答えは、しかと決まっていた。
「食べ歩きマップ〜♪!」
「女の子プロフィール集〜♪!」
 間抜けな笑顔を揃えた二人は、完全なる正直者であった。
 後ろから微かな物音がした時、由希が小さく息を付いて頬に冷汗を垂らしたのを、二人は見逃した。
「ちょーだい!ねー由希、早くー!」
「んな役に立たない経文なんかさっさと燃やしていいからさ」
「ではとことん正直者のお二人には…」
 手にしていた物を放り投げ、窓枠を掴むと、由希は素早くそれを飛び越えた。
「お昼寝から起きた三蔵様から弾丸のプレゼントー!!」
「てめェらーっ!!」
「ぎゃあぁあぁあーっ!!」
 ガラスどころか窓枠まで粉砕し、ありったけの銃弾が見舞われる中、天国の入り口にいた二人は、地獄の出口に向かって一目散に走り出していた…。
 マップもプロフィール集も貫通した弾のお陰でゴミ箱行きとなり、泉の妖精のお伽話は、鬼の怖さを知る為の教訓へと取って変わる。


「何でゆーきって、捨て身のギャグばっかやるんだろ?」
「つか、何で三蔵の野郎が由希の部屋で寝てんだよ!」
 命からがら逃げ延びた二人に、八戒が歩み寄って来た。
「また何をやらかしたんですか。由希はスッ飛んで行くし。ところで、二人共僕の手帳知りません?」
 蒼い顔を更に蒼白にしただけで、二人は何も答えない。
「もし見つけたら僕に教えてください。でも、絶対に中を覗かない事をお勧めしますよ」
 ふふふふふと迫力のある笑いを残して、八戒は去って行った。
 げんなりとしゃがみ込むと、二人は今後の空気を予想して戦慄した。
「ちくしょーっ、俺達が何したってんだーっ!!」
「アレだよな、ほらアレよ…」
 教訓、正直者はバカを見る…。
 ちょっと違うぞ、とどこからか由希のツッコミが入ったが、三人共それ以上は何も言わなかった。今はただただ安らぎを求めるばかりである。
 これぞまさに正直な気持ちであった。


 '04/06/05


《了》



オチがないっスね。思いつくまま成り行きで書きました。手帳は原作のシステム手帳とは別にしてあります。あれは別の意味で見せられないって言ってた訳だしね。



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