[携帯モード] [URL送信]

The flower of Eden
No.7 港町と懐中時計


今日は実に1週間ぶりに陸地へ降りた


ちなみに、バンエルティア号は姿形が珍しく、港に停泊するにも多大なコストがかかるらしいので近くの岩場に停泊している


今日の目的は買い出しとメンバー集めだそうで、船を出る際に船長さんからポスターを渡された


「いっぱい貼ってメンバーを大勢募りましょう!
大海賊アイフリードにも負けない一味にするんです!」


輝いた表情で先祖・アイフリードを語り出す船長さん


「じゃあチャット、行ってきまーす」
『いってきます』


近くにいたキールくんとリッドくんを生け贄……もとい、聴衆に差し出しファラさんと一緒に船を降りた


「えっと、ナツメはポスターを貼ってきてくれるかな?
私は食材を買ってくるね」

『はい、行ってきます!

あ、あとファラさん
桃とリンゴをお願いしてもいいですか?
ピーチパイとアップルパイを作ろうと思って……』

「ホント?
私、ナツメの作るアップルパイ大好き!
みんなも喜んでくれるよ!」

『ふふっ、頑張りますね』


どうやら私の料理は好評のようです


喜んでくれるなら、なおさら頑張らないと!

+++++


商店街の立ち並ぶ大通り

小洒落たアンティークショップの壁に
最後の一枚を壁に張り付ける


ふ、と息を吐いて町の中央にある時計塔を見れば、ファラさんと別れてだいぶ時間が経っていた

そろそろ彼女と合流しようと踵を返す


「ガウ!」


出たいだろうと思い匣から出したナッツが楽しげに私の周りを駆けていた

町の人は物珍しそうにナッツを見ているが
大して気に止めていないのが幸いだった


パッと見は猫科の可愛らしい動物だが……

成長すれば今と似ても似つかない姿に大変身するのである

今のうちにこの小さくて愛らしいナッツを存分に愛でておこうと心のなかでそっと呟いた


『ナッツ、おいで』

「ガウ♪」


少し屈んで手を差し出せば、ナッツは嬉しそうに私の胸に飛び込んできた


船の中では船長さんが嫌がるので出せない……
というより、どこから連れてきたのだと主にキールくんから聞かれることは必須

私だってどうしてナッツがいるのか分からないし、自ら進んで過去を話したくは無い


けれど、いつか私にその勇気があったなら……


そんなことを思いながら、ナッツを肩に乗せて歩き出した


立ち並ぶ出店の数々に目移りしながら、来た道を戻る


「お、そこのお嬢ちゃん!」

『はい?』


ぶらぶらと歩いていれば露天の店主に呼び止められた


「旅の記念に一つどうだい?」


そういって店主が見せたのは小さな銀製の懐中時計だった

簡素ではあるが細かな装飾が施してある


『これ、あなたが作ったんですか?』


店主のおじいさんはガハハ、と豪快に笑う


「ああ、年寄りの暇潰しにね
知り合いの時計屋から貰って模様を入れたんだ
文字とか名前なら20分程度で入れられるよ」


どうだい?と聞かれ、視線をさ迷わせる


確かに時計は欲しい
デザインだって私好み

とある言葉も入れて貰いたい



『………じゃあ、これに文字を入れて貰ってもいいですか?』

「おう!
なんて入れればいいんだい?」


メモ用紙とペンを受けとり、用紙に言葉を書いていく


『結構長くなりますけど……』

「構いやしねぇよ
……これでいいのか?」

『はい
お願いします』


「ああ、ちょっと待ってな!」


おじいさんは気さくに笑い、道具片手に文字を彫り始める


そして約20分後……


「待たせて悪かったなぁ
ほら、持っていきな」

『あ、ありがとうございます!』


代金を置いておじいさんに頭を下げる


表面に十字架の彫られた懐中時計の蓋を開け
入れて貰った文字を見る


「しっかし……
こりゃ一体なんて書いてあるんだ?」

『あ、えぇっと……』

おじいさんが不思議そうな顔でメモを見つめ首をしきりにひねっている



《Non dimentichi.
Tu e un crimine e punizione.》



これは、この世界にはない言語でかかれた
言葉


『これは私の、戒めなんです』


罪を背負うための、
罰を受けるための、



私の戒めなのだから




《忘れるな
お前の罪と罰を。》



(嗚呼、見つめる度に思い出す)

(懐かしいあの人たちの声を )

(そして私の無力さを)

[*前へ][次へ#]

7/13ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!