[前]夜空舞う、銀の蝶
4
悠嘉の痛み。
僕は変わる事なんて出来ない。
今は、それが酷くもどかしい。
気が付けば、手が伸びて
いつものように抱き締める。
悠嘉はそれを受け入れる。
いや、抵抗する気力がないんだ。
その時、気付いた。
悠嘉の手の中に、小さな袋。
「悠嘉、それ何?」
と指差せば、ゆっくりと僕の胸に押し当てた。
「僕にかい?」
こくり。
「………」
無言でリボンを解く。ありがとうなんて、言えない、言わない。
入っていたのは、シフォンケーキ。
それを千切って、口に含んだ。
───甘い。
でも、それは程よい甘さ。…チョコより好きだ。
無言の僕を見て、悠嘉はシュンとなっていた。
だから、言ってあげたよ。
「…美味しいよ、悠嘉」
「!」
悠嘉は顔を上げて
にっこりと微笑んだ。
胸の痛みは、なくなったようだ。
悠嘉はスルリと僕の腕の中から抜け出した。
一言残して
応接室を出ていった。
(ありがとう)
(先輩!)
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