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とけない雪
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そうして僕は、誰にともなく許しを得て生きてきた。ただ、一年後のこの日の為だけに。
自分勝手に破った約束を、もう一度果たすために。

『……雪……』

しんしんとあの日のように降り出した冷たい雪。
楽しげに歩いていた人たちの姿も次第に減っていき、街はイルミネーションのにぎやかさとは別に、ひっそりと静かな息遣いの中に身を委ね始めた。

『こんなさみしい中で、僕を待ってたのか?こんな…寒くて心細い中……』

来るはずのない相手を待つさみしさ。今、僕はそのさみしさを感じてる。

冷たい雪と白い息。

誰もいない、街。

待ち人の来ないさみしさ。

『…寒い……』

うつむくと、足元の雪が小さく溶けた。
ポツポツと小さな点となってとけていく。

『どう…して…?』

涙だった。
許されない僕の、流れるはずのない……涙。

僕は僕を許してなどいないのに。
誰も僕を許せないのに。
僕を許せる人はもう、いないのに………。

さく。さく。さく。

雪を踏みしめる音に、溢れる涙を拭うことも忘れて視線を向けた。

『……っ…!?』

もう、見られないはずのあたたかな笑顔がそこにあった。
幻かもしれない。
幻でもいい。
僕はきみに謝りたかったんだ。

『……ごめんね…約束、破って…寒かったよね、さみしかったよね、悲しかったよね、僕のこと、許せないよね』

一度こぼれた涙は、とめどなく頬を伝って落ちていく。
彼の声が聞きたい。どんな恨みごとでも構わない。責められてなじられようとも構わない。
もう一度声を聞かせて。

涙で歪んだ視界にはっきりと映った彼は、おだやかに微笑んだまま首を左右に振った。

『ずいぶん待たされたけど、来てくれたから』

そっと右手を差し出してきた。

思い出すのは、大理石のような冷たさ……。
僕はその白い手を見つめて…手を伸ばした。体の芯まで凍るような冷たい手の平が、僕の手をやさしく包みこんだ。

『あったかいな…俺の手冷たいだろ?ごめんな』

少しさみしそうに彼が笑った。冷たい手の平をあたためるように両手で強く握りこんで、僕は首を左右に振った。

『……きみに、会いたかった……』

少しもあたたまらない冷たい手を、もう一度強く握り締めた。
もう離れたくない。
もう離したくない。

『…ずっと……待ってたんだ…きみと、いたいんだ……』

だから
だから

彼は、僕の手をポンと叩いた。少し困ったように僕を見つめて。

『……それでいいのか?』

僕はこくりと頷く。
それは、僕が望んでいることだから。
僕の望みを、彼は知っているから。

『……そっか』

そう言って、彼は僕の手を引いた。
その瞬間、冷たかった彼の手にぬくもりが宿るのを感じた。
それは、僕が彼の側へ行けた瞬間だった。



夜が明ければ、僕は冷たい雪の中であたたかな夢を見ているだろう。
二度と覚めない、幸福であたたかな夢を。
とけない雪の中で――――。




fin

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