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遊戯王GX  −Selfish−
第3話 光と闇 A


「オベリスク・ブルーのエリートさんの実力はこの程度ですか?」



 どうしてこうなったんだ?

 オレはあのドロップアウトボーイに似たこいつを軽く倒すつもりでいた。

 いくら実力がブルーのレベルとは言え、このオレならば負ける筈無いと思っていた。

 しかし、現実はどうだ? このオレが1ターンキルされるだと!

 こんな事あってはならない。オレは勝ち続けなければいけないんだ。



「以前『デュエルアカデミアの質が年々落ちてきている』なんて眉唾物の噂を聞いた事がありましたけど、それを実感するとは思いませんでした。

 アカデミア上位成績者の集うブルー、それもその中のエリートがこのレベルでは、そんな噂が流れるのも致しかたが無いですね」



 何よりも許せないのが、こいつが本気で呆れている表情を見せている事だ。

 その顔でオレを見るな。あのドロップアウトボーイに似た顔で、オレを蔑むな。



「あぁ、アンティについては要りません。

 今の貴方からベストカードを取ってしまっては可哀想です。代わりにコレは貸し1にしておきますよ。今度返して下さいね」

「借りなど作らん! さっさと持って行け!!」

「話を聞いていなかったのですか?」



 なんだこいつ、威圧的になった。

 それまでが草食動物だとしたら、今は肉食動物、いやそれ以上? 



「ベストカードは要らないと言ったんですよ?

 第一、敗者が勝者に意見なんて出来る訳無いでしょ?

 これは貸しです。いつか返してもらいます。これは『契約』です」



 『契約』、その言葉を聞いただけで、オレの体はいう事をきかなくなった。

 反論したいのに何も言い出せない。

 人と対峙しているとは思えない。


 一体何処で選択肢を間違えた?

 あのドロップアウトボーイに似ているからと言う理由で舐めていた事か?

 新入りと聞き叩き潰そうと考えていたからか?

 ドロップアウトボーイにする予定のアンティ・デュエルをこいつにも行った事か?

 それとも、こいつとデュエルする事自体がそもそもの間違いだったというのか?



「安心して下さい。次回君が勝ったら、この貸しは消えます。

 もちろん負ければ貸しが増えますけれどね。

 腕を磨いて、強くなったらまたデュエルを挑みに来ると良いですよ?

 まぁもっとも、君がいつか貸しを返してくれれば、挑みに来なくても良いのですけどね?」



 一体何者なんだ? こいつは?








 第3話『光と闇』








 こいつは誰だ?

 一目見ただけでは十代にしか見えない顔。

 ブルーの制服と左眼に片眼鏡をしていなければ、十代にしか見えなかっただろう。

 十中八九十代の知人なんだろうが、今の情報では判断できないな。



「お前永遠か?」

「とわ?」

「アニキ、とわって誰ッスか?」



 やっぱ十代の関係者か。おそらく従兄弟ってところか?

 いや、ここまで似てると双子か?

 そんな事を考えていると、永遠と呼ばれた男子がデュエル場から降りて近寄ってくる



「やぁ、兄貴。久しぶりだね。あれから強くなったかな?」

「ひっさしぶりだな! 翔、司、紹介するぜ、オレの双子の弟の永遠だ!」

「遊城 永遠です。

 前学年までイギリス校にいました。兄貴が本校入学すると聞き、こちらに転入してきました。

 兄貴共々これからよろしくお願いします」



 永遠はそう言って左手を出し握手を求めてくる。



「ヨロシクッス! アニキの弟分をさせてもらってる丸藤 翔ッス!」

「ハハ、兄貴に弟分が出来たか。本物の弟はもう要らないかな?」

「そそそそんな!? あくまで心のアニキっていうか……」

「冗談ですよ。兄貴の事をよろしくお願いします」



 中々面白い奴だな。十代の弟ってのもわかる気がする。

 ただ……なんか違和感を感じるな……。



「俺の名前は天馬 司だ。十代とは今日からの知り合いだな。よろしく頼むぜ」

「こちらこそ。兄弟揃ってよろしくお願いしますよ」

「もっとフランクに行こうぜ? 同級生なんだからよ」

「いやぁ、これが地の喋り方なんで、これ以外だとムズ痒くなっちゃいますよ」



 気のせいか?



「ところで十代? 万丈目ってあいつか?」

「おっと、忘れてたぜ。

 万丈目! デュエル早速始めようぜ!」



 十代の呼びかけに、万丈目は今俺達が来た事に気づいたようだ。

 今の状況で予想するなら、永遠とデュエルをして何か衝撃的な事が起こったって事だろうな。



「ドロップアウトボーイか。

 今日はもう貴様が来る前にデュエルを終わらせた。オレの勝ちは預けておいてやる」



 そういうと仲間を引き連れて帰っていった。

 あいつ、帰る前にこっち見なかったか?



「あっ!? おい待てよ!?」

「兄貴すまない。あいつらとは僕がもうデュエルしてしまったんだ。

 だからきっと疲れてしまったんだろう……休ませてあげてくれないか?」

「むぅ〜……しょうがない。その代わり向こうでどんな奴が居たか教えろよ?

 翔、司、お前等も海外の事一緒に聞こうぜ!!」

「了解ッス!」

「しょうがないなぁ。場所は兄貴の部屋で良いかい?」



 海外の事か……俺海外に住んでたからなぁ……。



「悪い、今日は辞めとくわ。先に帰っててくれ」

「なんだよ? 付き合い悪いぞ?」

「初日から寝坊で遅刻なんざ嫌だってこった。また機会がありゃ聞かせてもらうぜ」

「しゃぁねぇなぁ。次は絶対に付き合えよ?」



 そう言って3人はデュエル場から出て行く。

 そろそろ良いかな?



「んで、誰かは知らんが、何時までそこに隠れているつもりなんだ?」

「あら? 気付いていたの?」



 そう言って出入り口の影から現れたのは、一人の女生徒。たしか、天上院 明日香だっけ?



「確か明日香だったか?」

「入学試験デュエルの日以来ね。憶えていてもらって光栄だわ」

「イイ女の事は忘れないさ。こんな所でストーキングしてるのなら少し評価ダウンだがな」



 呆れたような目で見るな。



「んで、何時から居た?」



 俺が聞きたいのはここからだ。

 万丈目からのメールを見た限りでは、プライドの塊みたいな奴だった。

 それが急にデュエル中止。十中八九、永遠とのデュエルで何かあったに違いない。



「残念ながら貴方達とほぼ同時よ。

 昼間、万丈目君達が遊城 十代にちょっかいかけてたから、今晩あたり何かすると思っていたんだけど……」

「半分正解だな。奴等アンティ・デュエルを十代に持ちかけてたからな」

「アンティ・デュエルですって!!」



 近くで怒鳴るな。俺が提案したわけじゃないんだぞ。



「校則で禁止されているのに、やっぱり碌でも無い奴等ね!!」

「まぁ、あの程度なら十代が負けるとは思えないがな」



 実際負けた後とは言え、オーラが全く感じられん。

 強いデュエリストって奴は、会った瞬間オーラみたいなものを感じる。

 一応万条目の奴にも消しカス程度にはオーラを感じたが、あの程度では問題外だな。

 因みに十代から感じたオーラは線香花火程度。今目の前に居る明日香はそれよりも若干勢いが劣ってる感じだな。



「そういう問題じゃないでしょ!?」

「わかったから、そんなに怒るな。美人が台無しだぜ?」

「茶化さないで!!」



 軽く赤くなって言っても説得力無いぜ?



「まぁ、未遂に終わったから良いじゃねぇか?

 それよりも、警備に見つかると面倒だから帰ろうぜ? 送ってくからよ」

「けっこうよ。送り狼になられちゃたまらないもの」



 するか! 自意識過剰な女だな。



「良いから送るっつってんだろ? 女子寮の手前までで良いだろ?」

「ハァ……わかったわよ。貴方って頑固ね」

「紳士的と言って欲しいね」





「ところで貴方は十代とデュエルしたの?」



 結局俺が送る事になり、道中の話題は十代とのデュエル。

 十代の奴、凄い人気だな。



「ついさっきな。それと、貴方なんて固っ苦しい呼び方はやめてくれ。司って呼んでくれ。俺も明日香って呼ぶからさ」

「勝手に決めないでよね……まぁ、良いわ。

 それで、どっちが勝ったの? あなた?」

「もちろん俺。成長途中とは言え、まだまだ線香花火程度には負けられないな」

「線香花火?」



 おっと、ついつい俺の考え方で喋っちまったな。

 結構単純っていうか、あんまり信じられてない考え方だから話したくないんだが。



「線香花火ってどういう事?」



 当然聞いてくるわなぁ……。



「あぁ〜……それは…だな……。

 融合によって一瞬にして燃え上がる事から考えた、奴のコードネーム的な……」

「そんな誤魔化しはいらないわ。本当の事を言いなさい」



 おぉ、怖っ! って言うか、なんで嘘ってバレたんだよ!?



「きっと信じられん話だぞ?」

「それを判断するのは私よ」



 ハァ……まぁ、いっか。



「あくまで俺の感覚なんだが、強いデュエリストってオーラを纏ってるんだよ」

「オーラ?」

「あぁ、炎みたいに揺らめいてるイメージだ。それが十代の場合線香花火ってレベルの火力だな。

 因みに言っておくが、入試の時のオカッパにもオーラを感じたぜ? アレはマッチの火って感じだったな。

 まぁ、十代を舐めきってたって理由もあるだろ。気持ち次第で感じ方が変わってくるからな。

 そんな感じで強い奴、もしくは強くなりそうな奴にはオーラを感じるんだよ」



 因みにメンドウだから明日香に言わんが、デュエル時にはオーラが流水のように感じる。

 だから、俺にはデュエルでの流れの変化はよく見極めるように心がけている。

 デュエルってのは、相手の流れをいかに制し、自分の流れを相手にぶつけきる事で勝てると思っている。

 そう言った意味では、十代は尋常でないほどの流れを作り出していたと思う。

 正直な話、あそこまで戦えるとは思っていなかった。



「ふ〜ん……因みに貴方のそのオーラってやつはどんなレベルなの?」

「ふ〜んって、信じるのか?」

「別に、貴方がそう感じているのならあるんでしょ? 私には眉唾物でけど、一応の参考程度にはなるでしょ」



 なんか俺を痛い奴だと勘違いしてないか?

 このオーラの話、超一流のレベルになると似たような感覚を皆持ってる。むしろ必須項目かもしれない。

 ただ、それによってあまりに絶望的な差を感じる事もあるが、それに屈しないのも一流にとって必須項目だろう。

 昔俺はこの感覚を知って有頂天になったが、一流レベルとのオーラの差に絶望した。まぁ、結局は諦めなかった訳だが。



「それで? あなたのレベルは?」

「まぁ、焚き火レベルじゃないか? 正直自己分析は苦手だから、なんとも言えんが……」

「……で? 私のオーラも感じるのかしら?」



 それ、自分で自分の事強いって言ってるのか?

 まぁ、実際見えてるけど。



「まぁ、十代と同じか、それより若干大人しい感じのならな」

「なっ!?」

「言っておくが、このオーラは持ってない奴の方が大半だからな」



 怒る前に釘は刺しておくか。



「それに、俺の感じるオーラは成長していく。俺だって初めて感じた時は明日香等と同じレベルだったさ」

「…………それって、フォローのつもり?」

「さぁね? 俺は事実を言っただけだ」



 さて、そろそろ女子寮か。



「この辺で良いか?」

「えぇ、送ってくれてありがとう」



 さて、帰って寝るか。



「最後に聞きたいんだけど」

「ん?」

「あの遊城 永遠にも、オーラは見えたの?」

「……………」



 あいつか。あれが今日一番の衝撃だったかもしれんな。



「あいつは間違い無く十代よりも上だな。むしろ俺より上でも驚かないね」

「あの子そんなに強いの?」

「さっき俺のレベルを焚き火で表しただろ? あいつのレベルは例えるなら炭火だな」

「炭火?」

「あぁ、なんとなくだがな」



 力があそこまでわからん奴は初めてだ。低く見るなら十代や明日香位のレベル。

 普通に見れば俺位のレベル。

 高く見ればペガサスさんに匹敵するレベルにも見える。

 今まで何人かオーラを見た事があるが、あんな見極めの難しい奴は初めてだ。あいつがデュエルで本気になった姿を見てみたいぜ。





 二日程したある日の夜。昼間からやけにテンションの高い翔が寮を出た時、PDAにメールが届いた。



『今からデュエルしませんか?
                                遊城 永遠』



 簡潔だな。だが、わかりやすくて良し。



「『OK、場所は何処だ?』っと」

「司! 大変だ!! あがっ!?」



 いくら大変だからっていきなり入るな。

 つい反射的に枕を投げちまったじゃねぇか。



「焦ってるからといっても、ノック位はちゃんとするべきだぞ? ついつい攻撃しちまったじゃねぇか」

「ってて……痛いじゃねぇか」

「んで? 何が大変なんだ?」

「そうだ! 大変なんだよ! 翔が攫われちまったんだ!」



 ハァ? 翔を攫ってなんか意味あんのか?



「どういう事だ?」

「これだ!」


『マルフジ ショウヲアズカッテイル。カエシテホシクバ、テンマ ツカサトトモニジョシリョウニコラレタシ』



 十代のPDMには、ヴォイスチェンジャーで声を分からなくしたメールが送られていた。

 女子寮……態々翔を攫ってまで十代と俺を呼び出す意味がわからんな。

 正直行く気が起きん。永遠とのデュエルに行きたいんだがなぁ……。



「早く行こうぜ!」



 しょうがない。少し遅れる事だけ送っておくか。





「アニキ〜」

「翔! これは一体どういう事なんだよ?」



 なんだこの状況?

 ボートを漕いで女子寮に着いたら、待っていたのは明日香と見知らぬ女子二人。

 そして、両手を縛られた翔。

 マジで翔を攫ったのか? でも攫う意味がわからんしな。



「それが……話せば長いような……長くないような……」

「コイツがね、女子寮のお風呂を覗いたのよ!」

「なんだって!」

「覗いてないって!!」



 ハァ?



「これが学校にバレたら、きっと退学ですわ〜♪」

「それで? これが俺たちにどう関係するんだ?」

「それは私が話すわ。貴方達のどちらか私とデュエルしない? 私に勝ったら、風呂場覗きの件は大目に見てあげるわ」

「ホレ、十代。お呼びだぞ!」

「おう! って、司はやんねぇのか?」

「やらん。帰る」



 なんで風呂覗きを庇わなきゃならんのだ。

 俺はさっさと永遠とデュエルをしに行きたいんだ!



「逃げるの? お友達がどうなっても良いの?」

「イイ男には予定が多くってね。今晩もこれからデートなのさ。

 それに十代を置いていくから良いだろ? どうせ十代は負けねぇよ。

 な? 翔を心配する必要なんか無くなった」


「「「「「デートォッ!?」」」」」


「おっと、お子様達には刺激が強すぎたかな?」



 実際、俺と永遠のデュエルは十代や明日香にはいい刺激かもしれんが、他のメンツだと強すぎる可能性大だな。



「貴方!」

「前にも言ったが、貴方なんて固っ苦しい呼び方はやめてくれ。司って呼んでくれよ? 明日香?」

「ッ!? 貴方はお友達とデートどっちが大切なの?」



 だから司って呼べよ。反抗期か?



「今のところはデートだな。十代を残して行くんだ、なんにも心配はいらん!

 なぁ? 十代?」

「いきなり振るな!」

「なんだ? 勝つ自信が無いのか?」

「勝つさ! 負ける為にするデュエルなんか無いぜ!」

「な? 問題ないだろ?」



 しまったって顔しても、もう遅いぞ。



「明日香もだ。俺は十代に勝ったんだぜ? ならまずは十代に勝ってみろよ?」

「ッ!? わかったわよ!! 後で覚えておきなさい!!」



 だから怒るなよ? 美人が台無しだぜ?



「まぁ、頑張れ。十代なら勝てるさ!」

「今からデートに行く奴に言われてもな……」

「そう言うな。後で結果を聞かせてやるからよ!

 もちろん、翔や明日香にも報告してやるよ。そちらのお二人はどう?」


「聞かねぇよ!!」

「結構ッス!」

「「「結構です!」」」



 それは残念。





「待たせたな」

「いえいえ、それほど持っていませんよ。それに僕の方が近いですしね」



 あれからすぐにこっちに来たが、やっぱり少し遅刻したな。

 指定されたブルー寮前の森の中には、俺と永遠の二人きり。今回のデュエルは誰にも見せる気は無い。



「早速始めようぜ!」

「えぇ」

「「デュエル!!」」

「行くぜ! 俺のターン! ドロー!」



 コイツ相手に出し惜しみは出来ないな。

 だが、この手札じゃ一気に行き過ぎても後が持たない。

 やはり、いつものように自分の流れを作るか!



「デッキの上からカードを3枚送り、魔法カード、光の援軍を発動する!

 自分のデッキから、ライトロードと名の付いたレベル4以下のモンスターを手札に加える。

 俺が選択するモンスターは、ライトロード・ドルイド オルクス

 更に墓地に送られた髑髏顔 天道虫の効果を発動する。

 このカードが墓地に送られた時、自分のライフを1000ポイント回復する」



(司 LP4000→5000)



「さらにライトロード・ドルイド オルクスを守備表示で召喚」

 ライトロード・ドルイド オルクス(守備力1800)



「ライトロード……初めて見るモンスターです」



 俺の場に白髪で本を持ったおっさんが現れる。

 初めて見た時から思うが、このおっさんなんで獣戦士なんだ? 見た目魔法使いだろ?



「そしてカードを2枚セットして、エンドフェイズにオルクスの効果を発動!

 デッキの上からカードを2枚送る! ターンエンドだ!」



 中々良い出だしだ。墓地に送られたカードも中々良かった。

 だが安心出来ないな。得体のしれないオーラの持ち主だからな……気が抜けん。

 永遠は一体どんな流れを作り出すんだ?




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