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小説2
拍手(2009.3月)



《別れの季節》



日が傾いた、夕暮れ。
薄暗い音楽室に、物悲しい旋律が流れる。
脆く儚い、危うさに満ちた空気が漂う。
奏でるのは隼人。
近付けば気配を察し、ぴたりと音が消える。
しー……んと、静まる空気。
ピアノの前には、顔を伏せた隼人。
「どうした?」
「……別に」
いつもとは、比べ様も無い程静かな返事。
かたんと、小さく音を立てて椅子から立ち上がり、ゆっくりとした動作で、ピアノの蓋を閉じる。
緩慢な動作が、不安定に揺れる心の動きを伝える。
思わず伸びた腕で、未成熟な細い体を抱き締めた。
腕の中で大人しい隼人。
「どうした?」
「3月はさ……」
再度の問い掛けに、消え入る様な呟き。
「……別れの季節なんだって」
『日本では』



3月の卒業式を目前に、校内ではその日に向けた準備が進んでいる。
その空気に、心が乱されたか……
別れから、何を思うのか……
多分、母親の事。
永遠の別れを経験した隼人は、何を思うのか。



腕の中の隼人に―――情け無い事に―――かける言葉が思い付かない。
不安定に揺れる心に、どんな言葉をかけるべきか。



「なあ、シャマル」
「うん?」
胸に押しつけられた頭、顎をくすぐるアッシュグレイの柔らかな髪。
「居なくなっても、良いんだ……」
(誰が?)
「この世に、居てくれれば……」
(誰の事を?)
言っているんだ……
「シャマル」
翡翠の瞳が、強い光を放つ。
「シャマル」
(俺か?)
「ふらふら居なくなっても良いから、勝手に死ぬな!」
『勝手に死んだら、果たすからな!』
大事な物を失った経験。
弱い心と、強い心を合せ持つ。
「死なね〜よ」
ぎゅっと、力を込めて抱き締める。
「居なくならね〜よ」
隼人の腕が、俺をぎゅっと抱き返してきた。
「……そっか……」
「そうだよ」





END


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