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小説2
臆病な心B
自分が吸わない銘柄の煙草と、身に付けない香水の混ざり有った嗅ぎ慣れた匂い。
鼻腔をくすぐる香りに、眠りから覚めきらない獄寺は、まどろみながら疑問を抱く。
『どうして、シャマルの匂いがするのだろう?』



(どうして?)
俺は、10年後の世界にいる筈。
この世界にシャマルが存在しているのかは、未だ謎。
なのに、シャマルの匂いがする。
(夢?)
夢を見ているのだろうか?
夢は目覚めれば消えてしまうのに、残酷だ。
(それに……)
香りだけでは無く、伝わる体温と、腕に抱かれる感覚。
(リアル過ぎ……)
目覚めれば、嫌でも現実に引き戻されるのに。
(それとも……)
夢なのは、10年後の世界で。
目覚めれば、シャマルがいて。
いつもの様に、並森中の制服に着替え、10代目をお迎えに行く。
そんな、いつもの日常が有るのだろうか?



眠る獄寺を腕に囲い、その確かな存在を感じるシャマル。
(寝てる時ぐらい、穏やかで有れば良いのに)
小さく吐いた溜め息が、朝日に輝く銀の髪を小さく揺らす。
溜め息を吐かせた要因―――眉間の皺―――に唇を落とす。
何が有ったかは知らない。
何を思うのかはわからない。
辛い夢を見ているのか、眉を寄せ、眉間に皺を刻む寝顔。
そんな顔をさせていたくは無い。
眉間に、額に、瞼に、頬に、次々とキスを贈る。
この静かで安息に満ちた時ぐらい、心穏やかでいて欲しいと願い。



「……あー……」
鼻をくすぐる香り、抱かれる感覚、肉厚な唇からキスをされる感触。
『夢のくせに、どこまでリアルなんだ』と思いながら、緩やかに覚醒する意識。
「っ!?」
(なっ!?シャマルっ!?)
開いた目が、どアップなシャマルの顔を捕える。
(夢じゃ!?)
何が夢で、何が現実か。
今、自分が存在する場所すらわからくなっていると、唇が重ねられた。
触れるだけのキスから、柔らかく啄まれるキス。
現状認識が出来ずに軽いパニックを起こしている間に、互いの舌を絡めた、深いキスに。
霞掛かる思考。
現状を認識しようとする意識が薄れる。
思い、願うのは、シャマルの存在を感じたいと。



三日間の不在の隙間を埋める様に抱き合って。
目覚めた瞬間、再び体を重ねた。
朝日に照らされた体には、昨夜既に確認済みの、自分の知らない傷の数々。
「学校、行くのか?」
何処で何をしてきたかは知らない。
ただ、終わってはいないのだと、隼人の放つ空気から窺い知る。
「……行く」
微妙に間を開けた後、返事をして身支度を整えていく姿を眺める。
最後に、体にボムを忍ばせる―――そこ迄は、いつも通り。
だが、その後に見慣れない物を身に付けた。
匣が連なったベルト。
(何だ?)
気にはなったが、疑問を口には乗せなかった。
(多分、答えない)
三日間の間の事を一言も口にしない様に、聞いても答えが返らないのは予想出来た。
目の届く所に置きたい。
腕の届く所に居て欲しい。
自分の囲う中で、その身をそうとは気付かれぬ様に守る。
そう出来たら……
(無理な話し、だよな)
強い意思と、信念を持って進む隼人。
守られるだけの弱さなんか無い。
(だったら……)



シャマルの存在を享受し、幸福に包まれた時間。
終われば、夢から覚めた様に現実が待つ。
身支度を整え。
最後に、未来の世界から持ち帰った新たな武器を身に付ける。
「先、行くから」
一足早く家を出ようとすると、『隼人』と呼び止められて足を止める。
「傷を負ったら、必ず来い」
「……」
いつでも、どんな時でも眠そうな瞳が、真面目な光を放つ。
(……)
『ピクニックで迷った』なんて、ふざけた言い訳が通用しない事はわかりきっていた。
それでも、何も問われる事が無かった事に密かに安堵していた―――騙し切れ無い事ぐらいわかっていたから。
「必ずって……」
「いつでも、どこでも、だ」
(……)
それなのに、いつに無く真面目な様子が、全てを見透かしている様で……
「男は診ないんだろ?」
それが、シャマルのポリシー。
「お前は違うだろ」
自分は違う?
「いいな」
(いつでも?)
「……1年後も?」
「ああ」
(どこでも?)
「5年後、どこにいるかわかんねーんだけど」
多分、高校卒業迄は日本にいるだろうが―――10代目が進学するおつもりだから―――その後は、わからない。
日本にいるのか。イタリアにいるのか。
「どこにいても、だ」
(じゃあ……)
「10年後は?」
何処にいるのかも、生きているのかもわからないのに。
「10年後も、だ」
「………」
酷い冗談の様だ。
10年後の世界、自分は数え切れないぐらい傷を負った。
(いなかったくせに……)
所在を確認してはいないが、あのアジトにいなかったのは事実。
「診て、くれんのかよ?」
「ああ」
真剣な眼差しから逃れる様に、きつく目をつぶる。
目を閉じても、感じる視線。



「約束しろよ!」
言い出したのは、シャマルだ。
『お前もな』と、にやりと笑うシャマル。
この世界でやるべき事を成したら、再び行く世界。
あの世界で、『散々怪我した!嘘つき!』と責めて、詫びを入れさせてやる!
(こんなに、不安にさせられたんだ)
簡単に許す気は無い。
不安に怯えるのを止め、走り出す。





《後書き》

アニメからの妄想ネタ話し、終了〜(^-^)v

アニメの予告編に、シャマル先生のお姿を発見してから書き出して……
さくっと終わらせるつもりが、長かった(>_<)

アニメ、オリジナルストーリーでの活躍を期待しています!


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あきゅろす。
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