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小説2
拍手(2009.1月)



《おねだりの方法》



「納得いかねー!」
「〈日頃の行いの違い〉ってやつじゃね〜?」
「なら、よけーに納得いかねー!!」
眉間に深く皺を刻み、不機嫌な隼人。
「俺も、ドクターの〈日頃の行い〉が良いとは思え無いかも……」
家庭教師の影響か、最近生意気なボンゴレ坊主。
「あははは〜〜」
楽しげに笑う、野球坊主。
全く、面白くない状況だ。
何で年明け早々の深夜に、野郎共に囲まれていなければならないんだ!
(寒いわ、人が多いわ、連れているのが野郎共だわ……最悪だ!!!)
手の中に有るおみくじは《大吉》と印刷されているが、全くもって当っていない。
(それもこれも、全てはリボーンの策略のせいだ!余計な入れ知恵しやがって)
今、この場に居ない赤ん坊姿のヒットマンを怨む。





クリスマスが終わり、世間は正月に向けて慌ただしい空気に包まれていた。
日本人は無節操にイベントを楽しむのだな〜、と思いながら、常と変わらない生活を送っていた。
ソファーでゆったりと寛いでいたら、風呂上がりの隼人がぺたぺたと裸足の足音を立てて、リビングに入って来る。
何故か、床に座りソファーに背中を預ける。
(何でまた、下に?)
俺の足下に座る隼人。
湯上りで火照った肌は、ほんのり上気している。
湿った髪からは、石鹸の香りが立ち上ぼり、鼻孔をくすぐる。
「冷えるぞ」
「んー」
いくら床暖房完備でも、湯冷めするだろうと声をかけるが、気の無い返事を返してくる。
呆れて、足下の隼人を眺めていたら、頭が傾き寄り掛かってきた。
珍しく甘えた仕草と、足にかかる重みが心地良い。
湿った髪に指を絡め、手触りを楽しんでいると、されるがままだった隼人が、不意に頭を動かす。
絡めた髪が、するりと指から擦り抜けていく。
低い位置から見上げられ、視線を重ねる。
(懐かしい角度だな)
まだ、今よりもっと小さかった頃の隼人を思い出す。
(随分、目付きが悪くなったな)
子犬の様に見上げてきていた瞳は、警戒心の強い猫の様な目付きに変わっていた。
ただ、翡翠の様に綺麗な瞳の色は、変わらない。
その翡翠の光が、ゆらゆら揺れている。
「どうした?」
ただ、じっと見つめてくる隼人。
ほんのり赤く染まった頬。
瞳が潤んでいる様に見えるのは、期待がそう見せているのだろうか?
柔らかさの残る頬を撫でると、俯いてしまった。
脇に手を差し入れ、抱き上げて、膝に乗せる。
素直にされるままで、本当に珍しい。
「どうした?」
もう1度、聞いてみる。
「……一緒に、居たいんだ」
消え入りそうな、小さな呟き。
「居るだろ?」
抱き締めている腕に、緩く力を入れて示す。
「違くて……」
ふるふると、小さく頭を振る。
動きに合わせて石鹸の香りがばら蒔かれ、髪の感触が首筋をくすぐる。
下半身を刺激する状況だが耐えて、宥める様に、背中を撫でてやる。
「今年と来年……一緒に…」
「今年と来年?」
首筋に顔を埋める様にして、耳元で囁かれる。
「今年の終わりと、来年の始まりを一緒に…」
(年明けを、一緒に迎えたいと?)
「ああ。一緒に、な」
「本当か?」
「ああ」
元々、そのつもりだ。
年明け早々に、予定なんか有る訳も無く。
「何が有っても?」
重ねて、聞かれて。
「ああ」
隼人の頭を引き寄せ、誓いのキスを贈る。
あからさまに、ほっとした顔をする隼人。
(可愛いな〜)
他愛ない要求と、そのねだり方に、口元が緩む。
更に、深いキスをしようと顔を近付けると―――ぐいっと、押し止どめられた。
「隼人?」
予想外の反応に首を傾げていると、隼人はさっさと膝から降りてしまう。
その行動を眺めていれば、携帯を取り出し―――「もしもし。……はい。夜遅くに、すいません」
(相手は、ボンゴレ坊主か)
その丁寧な口調から、電話の相手がわかる。
「はい。……ええ。……大丈夫です。上手くいきましたよ。流石、リボーンさんのアドバイスです」
(何を、話しているんだ?)
微妙に、嫌な予感がするんだが……
「楽しみっすね。……10代目と一緒に新年を迎えられるなんて、光栄です!」
「ちょっと、待て!隼人!!」
ボンゴレ坊主の声は聞こえないから、会話の内容はわからないが……
(『10代目と一緒に』って、言ったよな…)
俺の制止の言葉にも、振り向きもしない。
「あっリボーンさん。……はい、上手くいきました。……シャマルっすか?わかりました」
ようやく振り向いた隼人の左手が、携帯を突き付けてくる。
「リボーンさんが、代わってくれって」
(出たくない!!)
「さっさと、出ろよ!」
いつもの、キツイ眼差しで睨まれ、諦めて携帯を受け取る。
『ちゃおっス。獄寺は、可愛くおねだり出来た様だな』
「……」
(最悪だ!!)
『ツナと、山本の引率頼んだぞ』
「……どういう事だ?」
『初詣だ。ママンが、『夜中に子供だけでは駄目』って言うから。お前が、保護者替わりだ』
「……断る」
「『何が有っても、一緒にいる』って、言ったよな?」
脇から、にっこり笑う隼人。
思惑通りに事が運び―――満足した表情。



リボーンからのアドバイス。
《その1,下から上目使いに見つめる》
ソファーに座っていたから、足下に座ってみた。
《その2,素直に》
とりあえず、大人しくしてみた。
《その3,余計な事は言うな》
年末、年始を一緒に居て欲しい。
誰と、何処で、どうしてとは、言わない様にした。



『シャマルは、散々女遊びしてるからな。下手な駆け引きするより、シンプルにおねだりした方が良いだろ』
獄寺相手なら、勝手に良い様に受け取るだろ。
―――リボーンのアドバイスは的確だった。
目の前には、おみくじの結果をあーだこーだ言ってるガキ共。
赤ん坊姿の為、外出を駄目出しされたリボーンは、暖かい家の中に居るのだろう。



END





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