[携帯モード] [URL送信]

black game
3
瀧澤が真剣さをはらんだ口調で答えを告げると、時雨は眉を顰めた。
一度、沈黙を守ってから開かれた口調に、瀧澤が目を見開くのは至極当然の事だった。
「…もしも、敵の中に仲間、家族、親友、…恋人がいたとしても、お前は引き金を引けるか?躊躇い一つなく」
その言葉にはどんな想いが秘められているのか、瀧澤には理解しえなかったが、時雨の瞳は、答えを求めていた。
暫く押し黙っていた瀧澤だったが、やがて空気に気圧されて口を開いた。
「俺は…その時に考えて、正しいと思う事をやります。例えそれが、何かを失う結果になったとしても……」
威圧感漂う時雨を前に答えを告げたはいいが、はたしてそれが正しい答えだったのかわからない。
時雨自身も黙ったままで、何かを言うでもなく瀧澤を見ていた。
沈黙が訪れ、瀧澤の背に冷や汗が流れる。
何も言わない時雨の態度がかえって不安感をもたらしている。
やがて瀧澤の心境に気付いたのか、時雨は無表情のまま告げた。
「それがお前の答えか、…これからよろしく頼む」
無表情で少し不安や恐怖といった感覚を覚えさせる態度だったが、しかしそれでも彼の口調だけは、優しかった。
その様子に安心して、瀧澤つい小さく言葉を滑らせた。
「良かった…あってた」
ふんわりと笑って零した言葉だったが、時雨はぴくりと眉を寄せ、不機嫌そうなオーラを出した。
その姿に瀧澤がたじろいでいると、時雨は不機嫌そうに言う。
「お前は、……なんでもない」
何かを言おうとして口を閉じる。
続きが気になったが問うのは止めておこうと瀧澤は判断した。
その代わり、先ほどなげられた質問を返してみる。
「隊長、あなたこそ…戦う覚悟、あるんですか?大切な人でも、眉一つ動かす事なく撃てるんですか?」
瀧澤は自分が失礼な事を聞いていると理解しながらも問うてみた。
返ってくる答えが分かっていたとしても、なんとなくだが聞いてみたかった。
瀧澤の目を見て真剣さを理解した時雨は、何の躊躇いすらなく平然と答えを出した。

「撃てるさ…そんな事当たり前だ。戦う覚悟ならとうの昔に出来てるし、そのために俺はここにいる」

―もとより、大切なモノなんて…もうこの世には無いのだから。

最後の言葉は口から零れる事がなかったが、夢の中で笑う彼女を一瞬頭に浮かべながらも、時雨は相変わらずの無表情を守り抜いた。
時雨の言葉に瀧澤は違和感を消せない。
何故そんなにも当然のように言えるのか、人間性を疑う。
しかし、時雨が当たり前と言った以上、彼がそのためだけにここに来たと頭はちゃっかり納得していた。
この人は、こういう人なんだ。とどこか納得している自分に苦笑する。
不思議と時雨に対する嫌悪感はなかった。
「…百面相はすんだか?」
時雨の言葉にはっとしたのも束の間、すぐに自分の行動に対する羞恥心が顔を赤く染め上げる。
あわあわとしている瀧澤をほって、時雨は玄関とベランダに意識をやった。
「銃を構えろ…」
瀧澤に視線をやらないで言葉を投げると、一瞬間抜けな顔をした瀧澤は机の上の銃を拾った。
時雨は腰に下げたショルダーから出したマグナムと反動の少ないハンドガンを手にしていた。
「やはり、情報が漏れている」
呟きは誰に届く事なく消えて、盛大な開閉音と共に侵入して来た男達に彼は無言無表情で銃を向けた。
勿論、割れるガラス側にもマグナムを向けて。



[*前へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!