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black game
2
こん、と一度だけ扉をたたく音がした。
扉の向こうに誰かがいるようだ。
ハンドガンを握りしめ、警戒しながら扉の前に来ると、時雨は向こう側に聞こえるような声で聞いた。
「誰だ…?」
「……」
黙したままの相手に、まさかな、と口元が歪む。
そんなはずはない、と頭が繰り返す。
もし相手がAliceの奴らだとしたら、此方の情報がもれていることになる。
しかも、昨日の情報が、だ。
しかし、届いた声音は彼の予想に反して、戸惑いを見せるものだった。
「あ、の…すみません、朝早くに…えと、俺です。瀧澤和都です」
名を聞いた瞬間、ピクリと眉を寄せ、勢いよく扉を開いた。
「…なんで銃を持ってるんですか?」
瀧澤のほんわりとした雰囲気に息が詰まる。
「テロ対策の関係者とは思えない言葉だな…入れ」
扉の向こう側に人気を探す。
眉を寄せて顰めっ面で瀧澤を中に入れた。
バタンと扉を閉めて瀧澤に向き直る。
「何のようだ、瀧澤」
問えば瀧澤は顔を歪めて俯いた。
そんな瀧澤の服を軽くつまみ、リビングへと連れて行き、椅子に座らせる。
「コーヒーか紅茶…選べ」
「あ、えと…紅茶で」
無言で紅茶を用意すると、瀧澤が時雨に視線を向けているのに気がついた。
「柘君のことか?」
確信を秘めた問いかけに、瀧澤の息をのむ音が聞こえた。
戸惑いを隠せない表情が、おどおどとした様子を見せる。
「あたりだな…で、俺に何のようだ?」
「…どうして柘君が、捕まるとわかったんですか?」
瀧澤は歪む顔を元には戻さずに問う。
反して時雨は無表情で瀧澤に答えを出してやった。
「はじめからわかっていた訳じゃない。俺は神でも予言者でもないからな。ただ、誰かが狙われることは理解していた。だから予測したんだ」
「何を…」
「ジャックされるのはバス、地下鉄、飛行機など狭くて動いているやつ、人質はeve班の中の休暇中のやつだろうとな…だから一番気になる所に盗聴器と、部下を一人、配置しておいた」
「いつのまに…って、部下?」
呆然としていた瀧澤だったが、その言葉にはっとする。
すぐに切り替えて問うて来るが、ここからさきは重要事項だ。
答える訳にはいかない。
「悪いが答えられるのはここまでだ」
首を振って答えると瀧澤の前に拳銃を投げ出した。
「…と…きつ、き隊長?」
「選べ」
いきなり投げ出された拳銃を前に、瀧澤は疑問の声を上げる。
淡白とした口調で放たれた言葉に冷めた瞳に映っていた彼はやはり呆然としている。
「…瀧澤、お前…戦う気はあるか?」
「杜杵築隊長?」
「Aliceはそう柔な組織じゃない。例え洗練された兵士だとしても…へまをすれば確実に生死を問う問題に変わる。お前はそんな奴らと戦う気はあるか?」
長いセリフに、それでいて真剣さをはらんだ瞳が瀧澤を捉える。
しっかりと見つめられれば、急に目線を逸らしたくなる。
しかし、彼の問いは覚悟があるかないか、
目線を外せばそれこそ覚悟がないようにも取れる。
意を決して瀧澤は時雨を見据えた。

「…勿論、ありますよ」


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あきゅろす。
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