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black game
仕事
今朝の目覚めは最悪だった。
しばらく見ないでいられた悪夢を再び見ることになるなど、思ってもいなかった。

「姉さん…」

コーヒーを片手に呟く声はただただ、空気に溶けて散った。
十年ほど前の記憶。蓋をしたのはいつだったろうか
今でも時雨の胸にうずくまっている。

この世で一番、信じていた人。
大切な愛しい姉。
15歳も違う姉の姿は、いつみても美しかった。
両親が死ぬ間際に産まれた自分と、両親を置いて出て行った姉。
二人が出会ったのは、二人の両親の葬式の日だった。
両親は雨の日にスリップした車に跳ねられて死んだ。
時雨が見た、最後の両親の姿はなんとも酷いものだっただろうか。
運がよかったのか悪かったのか、よそ見をしていた時雨だけが生き残った事故。
親戚たちは皆、時雨を哀れみ、そして引き取り手を話し合った。
行方不明の姉が居ないことで、当時五歳の時雨一人を受け入れる余裕は、どの家族にもあったし、両親が残した莫大な遺産は時雨を引き取ったものに渡る。
それを知った親戚たちは目の色を変えて争い、当時の時雨にはそれがひどく醜く映ったのを鮮明に思い出せる。
例え時雨を使用人扱いにしようとも、死人に口無し、つまりは遺産だけ奪い、時雨を殺してもいいわけだ。
どの道いい人生はなくなったと、時雨が両親の遺影を前に泣きべそをかいたその時、優しい声が聞こえて、抱き上げられた。
姉の、雨音(アマネ)だった。
『叔父様方、時雨は私が引き取りますので、無駄な争いはおやめ下さいませ』
落ち着いた、しかし怒気をはらんだ声が響く。
反論しようとした親戚たちは、けれども姉が見せた豪華な車に驚き、口を噤んだ。
不敵な笑みと共に、親戚たちを追い出した姉がまず時雨に言ったのは、荷物をまとめることだった。



「あの時、姉さんがいなかったら…きっと俺は最悪な人生を送ってたんだろうな」
自嘲気味に笑って、遺影を撫でる。
写真の中、笑う彼女は、自分と同じ髪の色をしていた。

殺された、ただ一人の姉弟。
コードネーム、Alice

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