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black game
3
「ーっ…ぁ、はぁ…はぁ」

吊革が設置されている棒に手錠で拘束されてから数十分が過ぎた。
地下鉄であるのにすべての駅を無視して、電車は加速していく。
ひたすら走る車内には人質が一車両分。
ニ車両使って閉じ込められた人質はがたがたと恐怖に怯えている。
なんとかしなければ、と思うものの、腕は拘束されているし、俺には見張りが8人ほど付いている。
先ほどいた黒いスポーツバッグの男も保冷バッグの男も、やはりAliceだったようだ。

「さあ、聞かせてもらいましょうか。あなたの所属するeve班の班長を」
ねずみに似た顔の男が下品な笑みを浮かべる。
男の手にはナイフが握られていて、時々舌なめずりをしては、ナイフの切っ先を舌で舐めたりをしている。
先ほどから俺はそのナイフで肌を切られたりしていた。
捕まった時から覚悟はあったので、何一つ怖い事はない。
「…はっ、誰が言うか」
鼻で笑いながら男を睨むと何に興奮しているのか、男は鼻息が荒くなっている。
「そうですか、そうですか。いやいや、言いたくないならいいのですよ、趣向を変えてこちらの坊やがあなたの分の傷を負うことになるのでね」
「秀一郎!」
引っ張り出されたのはまだ年端もいかない少年だった。
5、6歳くらいだろうか、がくがくと震えながらじっと俺を見つめてきた。
その目には多くを語る力もましてや現在の日本を理解する力も、備わっては居なかった。
むしろその目が訴えるのは助けをこう言葉だけだ。
「…くそっ、卑怯者が…」
ギリッと拘束されている手に力がこもる。
せめて自由に動けたなら…。
「その子を、離せ…ぅぐ」
喉元を絞められ、息苦しさに声がもれる。
男はにやりと下品な笑みを浮かべながら言った。
「いやですねぇ…主導権を握っているのは此方ですよ?生意気は言わない方がいいんじゃないですかねぇ」
男の持つナイフが喉元に当てられ冷たさに顔が歪む。
パッと手を離され、息苦しさから解放された為に咳き込む。
男を睨もうと視線をあげると、目に映ったのは少年の恐怖に引きつる表情だった。
「やだぁ…ママ!ママ!!」
「秀一郎!…やめて下さい、お願いします!どうかその子だけは!」
少年の指にそっと当てられたナイフがつうっと白い肌をなぞり、赤い血がうっすらと滲む。
それを見た少年は悲鳴をあげて涙を流した。
秀一郎と呼ばれた少年の母親はがたいのいい男達に拘束され、少年の元に行けないのが煩わしいようだ。
悲痛な叫びが電車を支配していく。
「泣き虫ですねぇ…これだから子供は嫌いですよ、勿論女というのもだ」
無情な男はため息を吐いて冷たい視線を母親に向けた。
その視線に気圧された母親は、ごくりと息をのみながらも、なおも男にくってかかった。
「私の…私の大事な子供を返して下さい。お願いします」
ふるふると肩が震えている。屈辱的に顔が歪むのが見てとれた。
しかし男はにやりと再び口角をあげて笑った。
「…無理、ですねぇ。私、こう見えましてもこの子ぐらいの年端もいかない少年が大好きなんですよ、だから返せませんねぇ…私に依存させて薬漬けにするのも楽しみですし、泣き叫んで苦しんでいる姿もまた、楽しみですからねぇ」
男が放った言葉は耳を疑いたくなるものだった。
ギリッと歯ぎしりをする。
こんな腐った人間が存在するなど、信じたくなかった。
そう俺が悔しさに顔を歪めた時だった。
「あはは、相変わらず悪趣味ですね、三橋さん」
明るい声が響いて人質のいる車両の反対側を見やると、まだ中学、高校ほどの少年が笑いながら歩いてきていた。
「…やあ、ルー。ご機嫌よう…申し訳ないんだが、今お楽しみ中なんだ。邪魔しないでくれないかなぁ」
三橋、と呼ばれた男がにこりと笑って少年に言った。
少年はにこりと笑って「知ってますよ」と返し、こう続けた。
「…しかしね、三橋さん。残念ですがお時間です。はやく柘君宗矢から情報を聞きだして下さい」
「…仕方ないですねぇ、その代わりこの坊やと柘君は頂きますよ?」
「構いませんよ、欲しいのは柘君の持つ情報だけなので」
眉根を寄せてため息をついた三橋に、少年はにこりと笑った。
「はやく、して下さいね?」
彼はそれだけを言い残し、再び元の車両に戻っていった。
「…さて、じゃあ再開しましょう。いいですか、柘君くん。先ほどあなたにした質問の答えを10数えるまでに答えて下さい。答えなければこの少年の指を一本づつ切り落とします」
男は得意の下品な笑みを浮かべ、秒を数えはじめた。
ぴたりと合わされたナイフが少年の恐怖を誘う。
「1…2…3……」
どくん、どくん、と心臓が脈打ち、俺は額から冷や汗を流した。
「6…7…8…」
男のカウントが進み続けると共に、俺は息をのんで決意した。
ギュッと目を瞑り、口を開く。

…すまない、和都。


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あきゅろす。
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