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black game
2
しばらく黙って男を見ていると、電車が動き始める。
ガタンガタンと揺れ、音を立てて走る電車。
いつもなら聞き慣れたこの音をゆったりとした心持ちで聞いているのだが、今日はいささか勝手が違った。
原因はやはり、保冷バッグの男だろう。
ガタンガタンと電車に揺られながら男を睨みつけているが、男はそれに気づく気配はない。
むしろ、ガサガサとリュックをあさり何かを探しているようだった。
何を探しているのか、俺は男を観察していた。
しかし、男がリュックから何かを取り出そうとしたその時、
「すみません、白川まで行くにはどうしたらいいですかいね」
男を視界から遮って、少し小さめの老人が尋ねてきた。
面倒だが困っている様子だったので俺は丁寧に答えてやる。
「白川ならもう少し先の…そうですね、ここから六駅先で降りてバスに乗ればいいですよ」
「まあ、そうですか。ありがとうございます」
にこりと笑って答えてやると、おばあさんは深々と一礼し、去っていった。
スローなテンポのおばあさんだったが、何処にでもいそうな老婆だった。
さて、と男に視線を向けたところで気がついた。
もうじき駅につく事に。
俺はもう少し先だし、いちいち駅を気にする必要はないのだが、もしも男がこの駅で降りたら、その次の駅で本部に連絡を取って調べる事ができる。
しかし、俺の願いは叶うことはなく、男は次の駅もその次の駅も座ったままだった。
やがて俺が自分から降りたらいいのではないかと思案し始めた頃、
漸く男が重たい尻を上げ、席を立った。
次の駅で台車に手を置きガラガラとおして電車を降りて行った事に安堵して、正面を向く。
今度は黒いスポーツバッグを抱えた男が目についた。
…だめだな、神経質になりすぎてる。
次々と人を疑ってしまう自分に呆れて眉間のシワを抑えながらため息をついた。
ガタンガタンと揺られながら、俺は待ち合わせの駅の名前をアナウンスで聞く。
立ち上がり、ドアの前で降りる準備をしていたその時だった。

「動くな、…両手を上げてそのままじっとしてろ」
若い女の声がして振り返る間もなく、銃器の鈍い音がする。
そこで漸く異変に気がついた。
乗り始めた頃から、多少の差はあれ人間の数が変わっていない。
ラッシュの時間帯にこんな事があり得るのだろうか。
「柘君宗矢だな」
女にしては少しばかり低い声が俺を呼ぶ。
こくり、と試しに頷けば、女は黙って黒い鞄を肩から下ろした。
周りには、「敵」しか居なかった。

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