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『はぐれ陰陽師と人形の宴・]』




勾陣と太裳の後ろを走りながら、成明は式へと意識を向けていた。門と玄関はそこまで離れているわけではない。にもかかわらず、こんなに近くにいるのに式は成明の意志を汲み取るわけでもなく、成明自身も式を感知できない。

舌打ちしたい気持ちを落ち着かせ、成明は屋敷を囲う結界の外側へと視線を向けた。

「人型か……」

勾陣の呟きを聞くともなく聞きながら、自身の記憶を探る。背丈は小学6年生程度で一見すると普通の人間となんら変わりがない。しかし、その額には炯々と光る瞳があり、犬歯と耳が異様に鋭く尖っている。

「見覚えはないな……」

もしかしたら逆恨みかと思ったが、全く心当たりがない。これだけの妖気を持つ妖なら覚えがあってもおかしくないのだが。
疑問は何一つ解決しないが、二人の間を通り前に出た。

「妖よ、何の用だ。陰陽師の家と知っているなら立ち去れ」
『成明、来たよ。ここから出してあげる』
「何を言っているのかさっぱりだね。お前は、何故俺の名を知っている」
『あぁ、かわいそうに。辛かったよね。早く気づいてあげられなくてごめんね』

子供独特の高い声で紡がれる言葉は、成明と会話を成立させることもなく、一方的なやり取りが続く。

『そうか、そこにいる奴らの所為で出られないんだね。まってて、今行くから』
「妖がこの安倍の結界を破られると思うなよ」

それまで黙っていた勾陣だったが、妖が動くと判断し成明の前にでる。太裳もすぐに対応できる様にしているのがわかる。

『待ってて成明。すぐに出してあげる』

勾陣や太裳が何をしても、妖は成明から目を離さない。それこそ玄関を出た瞬間から成明はこの視線を感じていた。

思わず眉を寄せた成明は、直ぐにその表情に驚きを含ませる事になった。
おもむろに結界に手を伸ばした妖が、意図も簡単に結界をすり抜けたのだ。

「なっ……」
「成明、下がれ」

勾陣が筆袈叉を抜き、太裳が庇う様に前に立つのを気にもせず妖は笑う。

『成明、一緒に行こう』
「お前…一体何なんだ……?」
『ボク? 成明のトモダチだよ』
「何を言って……」

『ねぇ? 成明』

自らの名前の一文字一文字が、やけにゆったり耳に届く。妖に名を呼ばれた瞬間、成明の視界は真っ白に染まった。



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