]T 『はぐれ陰陽師と人形の宴・]T』 やたら重い瞼に力を込め持ち上げた先には、見慣れた自室の天井があった。 「成明様、大丈夫ですか?」 声の方へ視線を動かせば、不安そうに覗き込む太裳の姿があった。 「……問題ないよ」 自身の言葉を裏付ける様に、成明はゆっくりと身体を起こした。心配気にその一挙手一投足を見ていた太裳だが、成明のケロリとした様子に安堵の息を漏らす。 「あまりご無理をなされないでください」 「うーん、今回のは不可抗力なんじゃないかな」 まだ何もしてないのに倒れたのだから、たぶん。 そういえばあれからどの位時間が経ったのかと尋ねれば、2時間ほど眠っていたと返答があった。 「あの妖怪は?」 「勾陣が追い払いました」 成明が倒れた後、太裳がすぐに結界を築き、勾陣が妖を倒すべく踊り出たのだ。 「朱雀と天一も駆け付けてくれてくれましたので、妖は勾陣と朱雀に任せて私と天一は成明様をお守りしておりました」 「そう……」 なんともお粗末な話だ。妖の正体を知る以前に、敵前でぶっ倒れるとは。 「他のみんなは?」 「勾陣は居間に。朱雀と天一は先程の妖を追っています」 「あの妖……」 成明の式を乗っ取り、安倍の結界を楽々と越えてきた。さらに、成明の名を知り、しかも縛る様な言魂を使ってみせた。 「なにか因縁があるんだろうけど、全く覚えがないんだよなぁ ぼやく様に呟くと、成明は布団を退けて立ち上がった。太裳が諌める様な瞳を向けて来るが、気付かないふりをして居間へと廊下を進んでいく。 「どうするのですか?」 「それはもうさ……。派手に売ってきた喧嘩は高額で買い取らなきゃないだろ?」 この安倍成明の矜持を逆なでしてくれたのだ。それ相応の返礼をしなければ割に合わない。 成明の瞳に静かな炎が灯った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |