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『どうするんだ? 陰陽術は使えないのだろう?』
「適当にごまかします」
「おい……」
物の怪の低い声を聞いてもなんのその。
「元々、物忌みも修祓も必要ないんですから、やっても無駄です」
「なんだと?」
『なぜお前がそんな事を知っているんだ?』
なぜと言われても。自分が屋敷に侵入した本人なんだし。佐竹曰く、恐ろしい異形らしいし。
いつまでも黙っておけないと判断して、かい摘まんだ事情を説明する。
「なるほどな。あの時の騒ぎはお前か……」
「知っているのですか?」
『晴明の用で出ていた白虎と朱雀が妙な気配を感じたと言っていた』
そういえば、近づいて来た神気があった。なるほど、あれは白虎と朱雀だったのか。
「そういう訳ですので、形式だけで済ませますね」
やりたくないんだけどととは口に出さず、柏手を打つ。合掌のまま小さく口を動かす。あくまでも呪を唱える振りなので、本当に音には出さない。
形ばかりの邪気払いを行い、一息着く。
「……信用されたいとは思わないけど、あれはあからさまな気がするな」
そうとは気取られぬ様に顔を動かせば、雑色がこちらの様子を伺っているのが目に入る。
「仮にも安倍晴明の使いをなんだと思ってやがる」
「怪しさ抜群ですからね」
『道長の覚えもめでたい術者だと言うのにな』
「あれから何度か護衛を頼まれたらしいな」
晴明伝えに来たその話を断れるはずもなく、二つ返事で引き受けた事がある。
道長の話し相手としての色が強かったが。
さて次だ。
屋敷へ戻り、姫とやらのご機嫌伺いをしなければ。
仕事は仕事。
好まない奴の依頼でも、投げやりにこなしてはならない。
祖父の名に傷を付けるなんてことはしたくないじゃないか。
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