7 女房に案内されたのは西対屋だった。 「お待ちを」 南廂で待つように言われ、腰を落とす。御簾の向こうで影が動く様子を何となく見ながら、周囲に注意を向ける。 「特に気配はしないな」 御簾と蔀の向こうに人がいるので、目で応じるだけにする。 『念のため屋敷の中を見回って来ようか?』 勾陣の言葉に、少し考えてから頷く。すると、そのまま勾陣の気配が遠退いていく。 妖に当てられたとか、呪詛とかではないので、本当にただの病なだけだろう。 いくら祈祷や病平癒を行ったとしても、それは術者の腕次第。 「お待たせいたしました。どうぞこちらへ」 通された姫の部屋は、派手過ぎない装飾が施され、持ち主の品の良さが伺える。 「姫さま、お連れしました」 御帳台から弱々しい声が聞こえて来る。声色から判断するに、あまり良い状態とは言えない。 病平癒をと望まれたが、直接容態を診た方が良いかもしれない。 「女房殿。姫さまのご様子を伺ってもよろしいか?」 遠回しに言ったが、御帳台に入っても大丈夫かと問うたのだ。さしもの言葉に、女房も表情を曇らせる。 「帳を外して頂くだけでもかまいません」 「失礼ではありませんか。他の陰陽師はその様なことは行いませんでしたよ」 「おい、どうするつもりなんだ?」 雲行きが怪しくなってきた事を心配する騰蛇の声に、大丈夫だと視線を向ける。 「私は薬学を心得ております。平癒の呪いを施す前に、御容体を診せてはいただけませんか?」 薬師であるとの言葉に、目を吊り上げていた女房の表情が一変する。 「では、こちらに」 仕える姫が良くなるならばと受け入れてくれた女房に感謝しつつ、外された帳から姫の側に腰を降ろした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |