8 その家は川から少し離れた場所に建っていた。 人目に付かない場所で式から降りて、兄妹の案内で家の中へと入る。 「ただいま」 「お兄ちゃん、入って入って」 「お邪魔するね」 決して裕福ではないであろうことは、生活の様子からもわかる。 「太一、お父さんは?」 「この奥の部屋だけど」 「ちょっと会ってもいいかな?」 「大丈夫だと思うけど……」 不思議がる太一に連れられて、二人の父が休んでいる部屋に通してもらった。 床に臥している太一の父は、人目で衰弱しているのがわかる。 「父ちゃん、お客さんだよ。都で俺達を助けてくれたんだ」 「そうですか。太一と葉子が世話になりました」 「いえ、当然の事をしたまでですから。よろしければ、脈を見せていただいてもいいですか?」 太一の父の手をとると、脈を診たり、顔色や瞳の様子を手際よく確認していく。 「兄ちゃん、もしかして……」 「少しだけ薬について学んだことがあるんだ。太一が頼みに行った昭一さんには敵わないかもしれないけれどね」 「じゃあ、父ちゃんを治せる?」 「……大丈夫だよ。流行り病の一種だと思うし、薬を飲めばすぐに良くなる」 その言葉に表情を輝かせた太一だったが、一瞬で顔を曇らせる。薬に使う薬草は貴重で、今は中々手に入らないと昭一が言っていた。 「大丈夫だよ。約束する」 「兄ちゃん、本当?」 「とりあえず、今日は滋養に効く薬を置いていくね。体力を少しでも回復させた方がいいから」 一通りの事を終らせて外に出ると、既に空は茜に染まりはじめていた。 「急いで都に戻らないと」 「本当にお人よしだよな、お前……」 「子供達の為に、ずっと中に引っ込んでいた奴には言われたくないかな」 「餓鬼が嫌いなだけだ」 必要な薬草を見つけるためには、もう一度、昭一に会わなければならない。不機嫌そうに尾を降る傲越を乗せて再び都へ飛び立った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |