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9(後編)

兄妹の家から取って返すと、その足で急いで三条の市へ向かう。
先程放った式からは、まだ有益な情報が得られていない。
朝までに方を付けなければ、万が一ということもある。兄妹の手前、大丈夫だと言ったが、二人の父の容態はあまり良くはない。

「今から陸奥まで戻っている時間はないし」

この辺りで、どこにどの薬草が生えているかなんてわかるはずもない。
内裏に行けば典楽寮なりなんなりで薬草を栽培しているだろうが、流石にそれはまずい。

「おい、お人よし!」
「なんだい? 妖君」
「妖言うんじゃねぇ! どうすんだ? 薬草がなきゃ、お前は役に立たないだろう」
「悪かったね、役に立たずで」

陰陽師なら快癒や治癒の呪いなどが使えるだろうが、如何せん自分は陰陽師ではない。

「安心しろ、お前には才能はないんだから」
「それ、今日二回目……」

思わずもれた苦笑に、傲越は尾を振って応じる。

本当にこの妖もどきは。興味のないような振りをしていて、しっかり自分のことを見ていてくれるのだ。

「とりあえずは、さっきの薬屋に行くよ。あの人ならどこに群生しているか知っているだろうし。それに……」

あの時、昭一が見せた表情が印象深く残っているのだ。

「薬屋の人間ってあれじゃねぇか?」
「えっ?」

傲越が鼻で示す方を見れば、確かに昭一の姿がある。

「……言い争ってるなかな?」
「だな」

風向きで少しだけ話声が聞こえて来る。傲越の瞳は闇をものともしないし、何より人より視力がいい。
耳ももちろん良い訳で。

「なるほどな。だから人間はいけ好かないんだ」
「ごめん、俺にもわかるように説明してくれる? 一応は俺も人の部類に入るんだよね」
「……めんどくさい。気合いでなんとかしろ」
「気合いでなんとかなるなら、頼まないから」

仕方ないといった体で傲越が話した内容は、貴族社会にはありそうなもので。

貴族のごたごたなんて、どうでもいいという思いはあるにはあるが、今回は太一達との約束がある。
それに。

「昭一さんの事も気になるし」
「お人よしだからな」
「筋金入りのね」

ゆっくりと式を下降させると、二人は昭一の前に降り立った。



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