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「昭一!」

怒号と共に、軒先に並べられていた籠が空を舞う。
昭一と呼ばれた店主と同じ位の年の頃の男が胸倉に掴み掛かっている。

「見損なったぞ! こんなに小さな子が頭下げてるってのに」
「うるせぇ! 金のないやつに貴重な薬草をやれるかよ」
「お前!」

怒りが頂点に達した男が、腕を振り上げる。
昭一の頬を殴りつける寸前で、男の腕はその動きを止めた。否、止められた。

「暴力は良くないと思いますよ」
「なんだ、お前。邪魔をするな!」

凄みを効かせて睨みつけて来るが、はっきり言って怖くない。神将や師匠の方が数段恐ろしい。

「人の道に則った対応を求めるならば、暴力で解決しようとするのは如何なものかと。なにより小さな子の前で、行う事ではないのではないでしょうか?」
「う……。し、しかしだな」
「ここは市で、対価をもって物を手に入れる場所です。彼がどのような方かは存じ上げませんが、言い分は正当なものなのではないですか?」
「………くそ! 昭一、やっぱりあんたは俺達の事を見下してんだな!」

反論の余地のない言葉に、男は顔を真っ赤にしながら去って行った。それと同じくして、集まっていた野次馬も散り散りになっていく。

「一応、礼を言っておく」
「特に何もしていませんから」

ひっくり返った籠を元通りにする昭一には手を貸さず、突然の事にすっかり萎縮してしまった兄妹の前に膝を付いた。

「ごめんね。怖い思いをしただろう? 今日は帰った方がいい。家まで送るから」

今にも泣き出しそうな女の子を抱き上げると、少年の背を押してその場を離れた。

昭一の顔が一瞬だけ苦悩に歪んだのを、はっきりと見ながら。



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あきゅろす。
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