6
市から充分に離れた所で、改めて少年から事情を聞く事にした。足元を歩く傲越が不機嫌だが、気にしない気にしない。
噂だけで物事を判断するなと、常々から師に諭されていた為だろうか。
己の目で見聞きし、見定めたものこそ、信じるべきものであるという考え方が定着してしまった。
「二人とも名前は?」
「太一だよ。こっちは妹の葉子。さっきはありがとう。びっくりしちゃって……」
「大きな声で言い争っていたからね」
「あのお店のおじさんなら、何とかしてくれるって聞いたのに」
「確か、お父上がご病気だと聞いたけれど」
「うん。薬があれば治るんだけどさ、高価なものだから買えないんだ」
「おとうさん、くるしそうなの」
抱かれたままの葉子は、今にも泣きそうだ。おそらくはまだ四つかそこらだろう。小さな子に辛い思いをさせたままなのは本望ではない。
それに昭一の事も気になる。
「あのおじさんは、お金のない人にも薬をくれるって聞いたんだ。だから頼みに言ったのに。一回は良いよって言ってくれたんだけど」
その後、掌を返したように頑なに拒み続けているのだと言う。
「太一と葉子の家は?」
「鴨川の方」
幼い葉子を連れて都まで来るのは大変だっただろう。
それでも弱音を吐かないのは、きっと太一が兄だから。
「送って行くよ。その前に私の家に寄るけど良いかい?」
「いいけど」
どうしてだろうと首を傾げる太一の頭を少し強引に撫でると、数枚の符を空へ放った。
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