8 室内の異変に、外に控えていた他の者も気付く頃だろう。 室内の様子を悟られぬための結界を織り成した所で、真子は口を開いた。 「私は雅楽寮に勤める清原の娘です。父も出世を望んではおらず、位も高くはない。楽を奏でる事のみを誇りに思っているような人です」 父が帰って来るのを待ち、共に夕餉をとり、母と三人で楽の練習や舞の練習をする毎日。 そんなささやかな日常は、父が傷心しきった顔で帰って来た時に崩れてしまった。 「私が何を問うても、父は答えてはくださりませんでした」 楽を奏でることもなく自室に篭ってしまった父をあんじて、父の部屋の前まで来ると、中から父と母の声が聞こえてきた。 「とある方から、左大臣様を陥れる手伝いをせよと命じられたと。そのために娘を貸せと言ってきたと」 その者には娘がいなかった。だから、計画を実行するために、舞を踊れる姫が必要だったのだ。 真子は父を想い、全てを受け入れたのだ。 「皆様を眠らせて騒ぎを起こし、その騒ぎに乗じて他の者が左大臣様を……」 そこまで話すと、真子はふつりと押し黙ってしまった。 真子の話を信じるなら、まだ屋敷の中には、道長の命を狙う者が紛れ込んでいるのだろう。彼女が懐剣を忍ばせていたのは、もしもの時の保険といった所か。 「もうすぐ、舞が始まる頃合いですね」 そうすれば間違いなく騒ぎになるだろう。 護衛を任された以上は、この部屋で起こる全ての事を、未然に防がなければならない。 「少し、失敗してるけど」 室内をぐるりと見渡せば、使えそうな道具がちらほらと見受けられる。 「真子姫様、他の姫様方はいつ頃目を覚まされるでしょうか?」 「もう少しすれば……」 「なら、大丈夫ですね」 『どうするのだ?』 真意が読めず首を傾ける真子と勾陣に、笑みをもって応えた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |