5 「あの、秋保姫。すこしよろしいでしょうか?」 「はい?」 異常がないかを確かめる為に部屋の外へ意識を巡らせていると、先ほど名前を聞いてきた姫が再び話し掛けてきた。 それにしても、事情があるとはいえ、貴族の姫達が一所に集められているにも関わらず愚痴の一つもでないとは。流石は藤原道長といった所か。 「あの、秋保姫?」 「申し訳ありません。少々考え事をしておりまして。えっと……」 「真子と申します。秋保姫は藤原家の方なのでしょうか?」 「それは……」 困った。どう答えるのが無難なのだろうか。下手に藤原姓を名乗るのもまずいだろうし、かといって否定すると面倒だ。 『適当にごまかしても問題ないのではないか?』 徒人には聞こえない声でそう言うのは、傍に控えている勾陣だ。朱雀と天一は部屋の外を見て貰っている。 勾陣に話し掛ける訳にはいかないので、それと気取られぬように勾陣へ無言の抗議をあげれば、苦笑をもって返されてしまう。 真子姫にはとりあえず頷きをもって返すと、それ以上の追求を避ける為に自ら話題を変える。 「真子姫様は今日は舞を踊られるのですよね?」 「はい。このような場で、舞わせていただけるなんて光栄です」 そう言って晴れやかに笑うその姿は、良家の姫君に相応しい美しさで。 今日の宴に呼ばれた事が貴族の姫にとってどれだけ光栄かを表している。 しかし、言葉に反してその手は膝の上で固く閉じられ、震えていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |