鳴かぬ蛍が身を焦がす
生徒会(第三者視点)
「本当腹立つ、あの平凡!ちょっと綺堂、あいつ追い出すんでしょ!早くしてよ」
葵が苛立ちを孕んだ声で、綺堂に詰め寄る。放課後、教室とは思えないほど豪華な部屋に生徒会メンバーが全員集まって二人のやり取りを見ていた。
「あんなちっぽけな企業、すぐ潰せるでしょう。なんでこんな時間かかってるの」
「うっせぇな、面倒な事になってんだよ。というかお前らも少しは手伝えよ」
『先輩が俺に任せろっていった癖にー!』
「事情が変わったんだよ!鳥栖んトコが関わってきた。一筋縄じゃいかねぇ」
慧と彗がいつものように声を揃えて文句を言うと、今度は綺堂が苛ついた声を上げた。
そして綺堂の口から出た「鳥栖」の名前に全員が訝しげな顔をする。何故なら学内で鳥栖真幸は生徒会よりも特別な存在だからだ。家柄は勿論飛び抜けた容姿に学力、人を惹きつけるカリスマ性。前年の生徒会のオファーを断り図書委員長を務める彼には生徒会すら一目置いているのだ。
「なに、鳥栖と井沢が関わりがあって庇ってるとでもいうの?ありえない」
「あぁ、ありえねぇよ。そうじゃなくて会社同士が密接してんだ、どうやら鳥栖の親父はあいつんトコの会社が気に入ってるらしい」
「……じゃ、どうする?あいつ、追い出せない?」
普段滅多に話さない和巳まで会話に参加し、今後のやり方について悩む五人。全員一流企業の実家を持つが、鳥栖を敵に回して平気な者は誰一人いなかった。
「……もっと虐めてあげるしかないかなぁ」
「これ以上何するんだよ。一通りやってるぜ?」
『嫌がらせに暴行に誹謗中傷〜♪』
「………あいつ…しぶとい…」
しばらくの沈黙の後、葵が呟いた一言に全員が反応する。否定的な意見が上がるなか、葵はひどく歪んだ笑みを浮かべた。
「まだ、してないのが一つある。精神的にも肉体的にもキツいのがね」
「なんだよ、それ」
「それはねぇ……―」
以前の彼なら口にもしなかったであろう言葉を仲間に聞こえるだけの小さな声で告げる。そしてそのとても残酷な提案に、誰一人として意義を唱えなかった。
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